カルチャー
2014年3月11日
震源ではなにが起こっているのか?
『東北地方太平洋沖地震は"予知"できなかったのか?』より
地震の規模(マグニチュード)とは
地震の強いゆれを観測した地点の範囲が広いほど、地震の規模が大きいといいます。その規模の尺度がマグニチュードです。これはどのようにして決められているのでしょうか?
震源では自動車のハンドルを回すような力(偶力:カップル)が働いています。実は、同じ大きさで回転の向きが反対の2つのモーメントがぶつかり合っています。これが地震モーメントで、この値が大きいほど地震の規模は大きくなります。
大きな規模の地震でも、遠方ではゆれは小さくなります。震源から遠いほどゆれの強さが弱くなるのは、1つには地震波のエネルギーが空間に広がってエネルギー密度が薄くなっていくためであり、2つめは波のエネルギーの一部が岩盤に吸収され熱に変わるからです。実際のデータから、この2つを合わせた効果を示す経験式が知られています。
地震モーメントがわかっていると、経験式を使って波の減衰を見積もり、各観測地点の波の強さを計算することができます。逆に地震波観測データからモーメントを推定できますが、地震の規模を表すマグニチュードという指標は簡便な測定を旨として、モーメントの理論が台頭する以前に考案されました。
マグニチュードの測定値とは、地面のゆれの最大値を読み取ってその対数を取り、波の減衰を補正する距離の関数と、ある定数をそれに加えたものです。特別な地震計の記録を用いてアメリカのリヒターが最初に導入しました。その後、測定する波や波の周波数などの違いによっていろいろな種類のマグニチュードが定義されています。
津波の基礎知識
大地震が海域で発生し、海底の地面が上下に変位したり、海底地滑りによって地形の高度が変わるとその上の海水がもち上げられたり、逆に下に引き込まれたりします。そこが津波の波源になります。
津波は海水面が盛り上がったり、へこんだりしながら遠くへ伝播します。地震波や音波と違って、津波は重力の影響が強く、重力に依存した水圧のバランスと海水面から海底までの全体の海水量(質量)が保存されるように波がつくられます。したがって、津波の伝播する速度vは以下のように、重力の加速度gと水深Hに関係します。
v=√gH
おおざっぱな計算をするときはg=10m/(sの2乗)として、たとえば水深が1,000mなら津波の速度は100m/sとなります。水深が2,000mなら140m/sになります。
津波の伝播途中で水深が変わっていくと速度も変わります。海岸から沖合いを見れば、水深は沖へ行くほど深くなっていますが、津波の伝播速度も沖合いへ向かって速くなっています。地震波もそうですが、伝播速度が変わると波の進路が曲げられます。海底の上下変動で発生した津波は直接到達したあと、反射して沖合いに向かいながら進路を曲げられて別の海岸へ達する場合もあります。
水深が急に変わる地点では、波の反射が起こります。海山のような高まりがある地形に波がぶつかれば反射し、ふたたび海岸に向かいます。いろいろな方向からやってくる波が海岸に到達するとき重なり合って高い津波をつくることもあります。
震源断層が巨大な地震では、海底の変動地域も広大で、津波の波源もたくさんできることになります。海岸に近い津波源ばかりでなく遠い波源からも津波がやってきます。多数の津波源から直接くる津波、屈折してくる津波、反射してくる津波......と次々に押し寄せてきます。
ところで津波の高さには2つあります。まず、海面の高さとして測るのが1つ。海岸にある験潮所でおもに測定します。2つめは津波が上陸し、勢いをもって到達する地点の高度「遡上高」です。遡上の「遡」は新月のことを意味する「朔」に関係があります。月を見るとき、新月のときは月の姿は見えないのですが、たとえば見えるようになった三日月のときから3日さかのぼった日の月が新月だと判断します。漢字に逆を意味する字の「屰」と「月」が入っているわけです。そして道などをさかのぼるとき「遡る」、川などをさかのぼるときは「溯る」です。
(了)
【著者】佃 為成(つくだためしげ)
1945年生まれ。1969年、東京大学理学部卒。東京大学地震研究所をへて現在は日本女子大学講師。専門は地震活動、地震テクトニクス、地震予知。著書に『大地震の前兆と予知』(朝日新聞社)、『東北地方太平洋沖地震は"予知"できなかったのか?』(SBクリエイティブ)などがある。
1945年生まれ。1969年、東京大学理学部卒。東京大学地震研究所をへて現在は日本女子大学講師。専門は地震活動、地震テクトニクス、地震予知。著書に『大地震の前兆と予知』(朝日新聞社)、『東北地方太平洋沖地震は"予知"できなかったのか?』(SBクリエイティブ)などがある。