ビジネス
2014年4月22日
マッキンゼー流・論理思考──頭がいいのに仕事もプライベートも「うまくいかない」人がいるワケ
『マッキンゼー流 入社1年目ロジカルシンキングの教科書』より
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クリティカルに考え、ロジカルに展開する


 奥さんが結婚記念日にネックレスをもらって、嬉しいか嬉しくないかといえば当然「嬉しい」わけであり、奥さんを喜ばすという意味においては、その選択は正解だったといえます。しかし、もし奥さんが結婚記念日にふたりで話す時間を持ちたかったのであれば、最適な解は、ネックレスよりも「いつもありがとう。すごく幸せだよ。ゆっくりふたりで食事しながら過ごそう」というKさんの言葉だったのかもしれないわけです。

 人間は、近しい相手であっても、自分が「本当はこう思っている」ということや「こんなふうにしてもらったら嬉しい」ということをなかなか直接相手に伝えられないことがよくあるものです。

 あれっ、ビジネスの現場で使えるロジカルシンキングの話題なのに、なんで男女間のコミュニケーションの行き違いの話をしてるの?

 そんなふうに思われるかもしれませんが、じつは、こうした「正解なのに、うまくいかない」現象は、ビジネスの現場、対クライアントとの人間関係や職場でもたくさん発生しています。そして、そのような現象を「伝え方の問題」として仕方のないことと思っていないでしょうか。

 しかし、職場や取引先で「伝え方の問題」として片づけられていることが、じつは「論理思考」不足の問題だったとしたら、ちょっと、その対応策も変わってきます。

「あの人、言っていることは正しいけど、なんかしっくりこないんだよな」
「いつも言いたいことがうまく伝わらなくて後悔する」
「ちゃんとやったはずなのに、なんでダメだったんだろう」
「そんなこともわからないの? 言っている意味わかる? って上司に困った顔される」
「こちらがやってほしかったことと、まったく違うものが提案されて、その理由もわからず、ビックリしたよ」

 私たちの周りでは、常にこんな言葉が飛び交っています。

 あまりにも日常的なので「仕方ない」と無意識のうちに諦めてしまっているかもしれません。

 とはいえ、私たちはみんなKさんのように、できれば相手に喜んでもらいたい、相手にうまく伝えたい、相手を理解したいし自分のこともちゃんとわかってほしいと考えて行動しています。行き違いを望んでいる人はいません。

 それなのになぜ、こんなにも多くの「うまくいかない」ことが起こるのでしょうか。

 ここでもう一度、先ほどのKさんの思考と行動をふり返ってみます。

◎「アクセサリーは女性が喜ぶプレゼントランキング上位だ」【前提ルール】
◎「奥さんがネックレスをネットでチェックしていた」【調査観察】
◎「結婚記念日にサプライズでプレゼントしよう」【結論行動】

 一見すると、ちゃんと論理展開が成り立っているように思えます。しかし、そもそも「前提ルール」とした「アクセサリーは女性が喜ぶプレゼントランキング上位だ」というのが本当にKさんの奥さんにも当てはまっていたかどうか。

 Kさんが最初にネットで見つけた《女性が喜ぶプレゼントランキング》は、じつは、独身女性を母集団にしたデータだったかもしれないのです。

 既婚者の女性を母集団にしたアンケートだったら、異なる結果になっていたかもしれません。たとえば、案外、モノのプレゼントよりも「自分の存在が相手に幸せをもたらしている」という証になるような言葉や、「自分が大切にされている」と確認できるような言葉がほしいというのが、ランキングの上位にくるかもしれません。

 ただ、そういった「心の奥深くにある本当の気持ち=インサイト」は、日常ではほとんど表には出てこないものです。もっといえば、当事者である本人も、自分の本当の気持ちに気づいていないことだってあるのです。

 それなのに、表に見えている状況や目先の情報を「前提」にして、本当のところはどうなのかというインサイトを見極める「深い洞察」をしないで結論を出したり行動してしまうことで、「こんなはずじゃなかった」という"悲劇"が発生するわけですね。

 でも大丈夫です。私たちは、普段から基本的には「論理的」に考え行動することができています。ただ、そこにもう少しだけ「深さ」を加えられれば、いろんな場面でその場面に最適な"正解"を出せるようになります。

 その方法=論理思考こそが、皆さんにお伝えしたいこと。

 そもそも「ロジカルシンキング(論理思考)」とは、どのような思考のことをいうのでしょうか。ちょっと考えてみましょう。

 ここでいう論理思考とは「クリティカルに考え(深い洞察による自分の考えを持ち)、ロジカルに展開する(わかりやすく伝える)」ということです

 論理思考の基本は、たったこれだけです。

 論理思考の本質は、このようにシンプルなのですが、その中にはとても重要な視点が含まれています。それは、クリティカルに考える(深い洞察による自分の考えを持つ)という視点です。これがとても大切。クリティカルに考えるという視点があるか、ないかで「それ、いいね」と言われるかどうか、あるいはぐっとくるか、こないかが左右されます。

 深い洞察から自分の考えを導き出すことこそが、本質に迫るような思考をすることにつながる。それが「本物の論理思考」です。

 論理思考とは、ただ単に決まった"公式"のようなものに当てはめて思考を形式化することではありません。クリティカルに考える(深い洞察による自分の考えを持つ)こととセットで行うのが「本物の論理思考」だということなのです。

 世間でいう「ロジカルシンキング」が、最初から答えありきで、その答えに矛盾や間違いがないことを論理的に検証するものだとしたら、マッキンゼー流の「ロジカルシンキング」とは、常にゼロ発想、仮説思考で、その場に最適で的を射た「新しい答え」をクリエイティブ(創造的)につくっていくもの

 その思考作業は、みんなそれぞれの「センス」の違いを出すことができて、とても面白く、マッキンゼーでは、そうした「人を惹き付ける思考」で新しいバリューを出すことを「セクシー」と呼んでいました。

 詳細は『マッキンゼー流 入社1年目ロジカルシンキングの教科書』にまとめてありますが、読み進めていただくと、いかにいろんな場面で論理思考の「ある・なし」が、私たちの選択とその結果を左右しているかがわかると思います。

 そして、大げさではなく、その積み重ねが「自分が望むもの」を手に入れられることにもつながっていくことが見えてくると思います。

 ぜひ、今のうちに「マッキンゼー流ロジカルシンキング」を身に付けて、深い洞察とその結果がもたらしてくれる「うまくいく」人生を楽しんでください。

(了)


マッキンゼー流 入社1年目ロジカルシンキングの教科書
大嶋祥誉 著



【著者】大嶋祥誉(おおしま さちよ)
センジュヒューマンデザインワークス代表取締役。エグゼクティブ・コーチ、組織開発・人材育成コンサルタント。上智大学外国語学部卒業。米国デューク大学Fuqua School of Business MBA取得。米国シカゴ大学大学院人文科学学科修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーでは、新規事業のフィージビリティスタディ、全社戦略立案、営業戦略立案などのコンサルティングプロジェクトに従事。その後、ウイリアム・エム・マーサー、ワトソンワイアット、グローバル・ベンチャー・キャピタル、三和総合研究所にて、経営戦略や人材マネジメントへのコンサルティングおよびベンチャー企業支援に携わる。2002年より独立し、エグゼクティブ・コーチング、組織変革コンサルティング、チームビルディングやリーダー開発に従事する。著書に『マッキンゼー流 入社1年目問題解決の教科書』『マッキンゼー流 入社1年目ロジカルシンキングの教科書』(SBクリエイティブ)がある。
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