カルチャー
2014年9月12日
なぜ"噛む"と認知症を予防できるのか
『認知症を「噛む力」で治す』より
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噛むと、顔のさまざまな筋肉が動く


 それでは、なせ噛んで食べるようになると認知症が改善するのでしょうか。端的にいえば、噛むことで脳が活性化され、神経細胞や神経ネットワークが錆びついたり死滅したりすることを抑えられるのです。

 歯を食いしばったりゆるめたりすると、こめかみ付近の筋肉が広い範囲で動いていることが分かるはずです。この筋肉を「側頭筋」といいます。また、ほっぺたの少し後ろに手を当てた状態で歯を食いしばると、グッと膨らむ部分があることに気づくと思います。その筋肉が「咬筋」です。そのほか、あまり意識していませんが、食事をするときは顔の表情筋や、首や肩の筋肉も使っています。さらに、舌も筋肉です。食事のとき、めったに舌を噛まないのは、口の中の食べ物の状態に関する情報が脳に伝えられていて、脳が舌の動きをコントロールしているからです。

 このように、食事する=噛むという行為は、これらの筋肉が上手に、かつ無駄なく連携して動いていることであり、そのために脳はさまざまな情報を集め、随時適切な指令を出し続けていることになります。つまり、噛んでいる間、脳は活性化しているわけです。

噛むと、味の情報がたくさん脳へ送られる


連合野とそれぞれの役割 ※クリックすると拡大

 よく噛むと唾液がたくさん分泌されます。唾液は、味物質を溶かして味細胞まで運びやすくする役割があります。そのため、しっかり噛むことで食べ物の味をじっくり味わうことができます。お米を長く噛んでいると、口の中に甘みが広がるのは、唾液のおかげなのです。

 こういった味の情報が、脳へたくさん伝わることによって、脳が活性化されます。

 噛むことと脳の活性化については、実験でも証明されています。

 市販されているガムと同じくらいの硬さのガムを32秒間ゆっくり、しっかり噛んだら32秒間休むことを4回繰り返します。その結果、年齢が増すにつれて連合野の活性化が明瞭になることが分かったのです。

高齢者のほうが、噛むことで連合野が活性化する ※クリックすると拡大

 連合野とは、運動連合野、頭頂連合野、側頭連合野、前頭連合野、後頭連合野の5区に分かれていて、高いレベルの精神的な働きを担っていると考えられています。人間らしさを支えている部分であり、認知機能とも深く関係している部分です。

 人間は年齢が増すほど、脳の神経細胞は錆びつき、死滅していきます。高齢者ほど噛むことで脳の連合野が活性化されるということは、この錆びつきや神経細胞死を遅らせる効果が期待できることを意味しているのです。

(了)


認知症を「噛む力」で治す
小野塚 實 著



【著者】小野塚 實(おのづか みのる)
神奈川歯科大学名誉教授、日本体育大学教授、「咀嚼と脳の研究所」所長、日体柔整専門学校校長。1946年生まれ。東邦大学卒業。1986年米国ワシントン大学へ留学、1986年に岐阜大学医学部に移り認知症予防の神経科学的研究を行う。1989年には記憶研究の国際プロジェクトに参画するため、再びワシントン大学に招聘される。その後、岐阜大学医学部助教授などを経て現職。おもな著書に『噛めば脳が若返る』(PHP研究所)、『噛むチカラで脳を守る』『噛むチカラで肥満を防ぐ』『噛むチカラでストレスに勝つ』(健康と良い友だち社)など。近著は『認知症を「噛む力」で治す』(SBクリエイティブ)。



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