スキルアップ
2014年9月9日
なぜ米GEは創業事業の家電事業を売却したのか?
『1分間ジャック・ウェルチ』より
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【名言3】仕事に命を吹き込むのは優れた社員であって、優れた戦略ではない。


 米国企業には、超優秀な社員を「Aプレーヤー」と呼び、それを渇望する経営者が少なくない。Aプレーヤーだけを採用し、Aプレーヤーだけでチームをつくればすごい仕事ができると信じている。

 ウェルチも同様だ。どんな素晴らしい戦略や事業計画があっても、そこそこの人材や、有能だが慎重すぎる人物が担当すると成功しない。Aプレーヤーの投入が必要だ。

 「あらゆる仕事に命を吹き込むのは、優れた社員であって、優れた戦略ではない」と考えている。

 ウェルチにも、失敗しそうになった新規事業がある。癌の発見に威力を発揮するPET(ポジトロン断層法)事業と、小型ジェットエンジンの製造事業だ。いずれも最初は数千万ドル程度の事業であり、PETに関しては売却さえ考えた。だが、ウェルチはすぐに将来性に気づき、優秀な人材を投じることで両事業を大きく育てている。

 そのような人材育成を経て、やがてウェルチはGE最後で最重要の人事にとりかかる。自分の後継者づくりである。

 21年におよぶ経営を成功させ、「GE=ジャック・ウェルチ」のイメージは強烈だった。それを上回る人物を選び、育てなければならない。ウェルチはプラスチック事業で成果を上げ、プラスチックの普及とともに昇進した人物だが、後継者のジェフ・イメルトも同事業出身であった。

【名言4】後継者には私がつくった古い殻の一部を破ってもらいたい。


 ウェルチの後継者問題は早くから世間の関心事だった。1995年にウェルチは心臓のバイパス手術を受け、マスコミは盛んに危機感をあおったが、現実にはきちんと後継者が育っていた。

 ウェルチは常に、自分に事故などの緊急事態が起きた時に誰が職務を引き継ぐかのリストをつくっていた。その中から最終的に選ばれたのが、イメルトだった。

 ウェルチは自分のことを短気で泥臭く、人前でうまく話せない異端児で、会社人間になれない男だと思っていた。

 実際、プラスチック事業部では「無謀」と陰口を叩かれ、CEOになった時は、金融センターであるウォール街で「ジャックとは誰だ?」と冷笑された。

 そんな自分が官僚組織を打破し、GEを小企業のように素早く動ける会社、最高の人材工場にしたことは、ウェルチの誇りだった。その誇りの総仕上げとして、自分と同じく45歳でCEOに就任するイメルトに「できることなら......」と、こう望んだ。

 「私がつくった古い殻の一部を破って新しいことを始めてもらいたい。新しいアイデアを持ち込むとはそういうことだ」

 ウェルチは、2001年に65歳でGEを退任した。イメルトは改革を進め、自分にもウェルチにも思い出深いプラスチック事業を、2007年にサウジアラビアの会社に116億ドルで売却している。

徹底した事業の選択がジャック・ウェルチの経営戦略の真髄


 いかがでしたでしょうか?

 私は、戦略やマネジメントの研究をする中で、ウェルチの実践に即した経営戦略やマネジメントの考え方に、非常に感銘を受けました。

 最も衝撃的だったのは、事業存続を決めるための3つの選択肢です。

(1)事業を存続させる条件は業界ナンバーワンかナンバーツーになること
(2)それになれないのであれば撤退する
(3)もしくは売却をする

 選択とは、「やることを決めると同時に、やらないことも決める」ことです。ウェルチは、徹底した事業の選択によって、21世紀に勝てる分野を残したのです。

 さらにウェルチは、21世紀に勝ちを取りにいく分野を、M&A(買収と合併)によって獲得します。放送事業、金融事業など、現在の成長産業を、すでに80年代に買収しています。その一方で、83年には黒字だったテレビ事業を売却しています。「テレビはコスト競争により、日本企業には勝てない」と判断したからです。黒字の間に売却したほうが高く売れ、新しい事業の買収資金に回せるのです。

 今の日本企業が学ぶべき考え方が、ウェルチの実践の軌跡に凝縮されています。今の日本に求められている理想の経営者は、日本版ジャック・ウェルチなのです。

(了)


1分間ジャック・ウェルチ
勝利に徹する不屈のリーダー戦略77
西村克己 著



【著者】西村克己(にしむらかつみ)
岡山市生まれ。芝浦工業大学大学院客員教授、経営コンサルタント。1982年東京工業大学「経営工学科」大学院修士課程修了。富士写真フイルム株式会社を経て、1990年に日本総合研究所に移り、主任研究員として民間企業の経営コンサルティング、講演会、社員研修を多数手がける。2003年より芝浦工業大学大学院「工学マネジメント研究科」教授、2008年より芝浦工業大学大学院客員教授。専門分野は、MOT(技術経営)、経営戦略、戦略的思考、プロジェクトマネジメント、ロジカルシンキング、図解思考。著書に、『よくわかる経営戦略』(日本実業出版社)、『論理的な考え方が身につく本』(PHP研究所)、『経営戦略1分間トレーニング』『1分間ドラッカー』『1分間コトラー』『1分間マイケル・ポーター』(共にSBクリエイティブ)など多数。
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