ビジネス
2014年9月30日
インドネシアに見るITビジネスの将来像(その1)
[連載] ジャカルタで働く社長のコラム【2】
文・中村 けん牛/協力・吉政 忠志
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開発プラットフォームとして世界を席巻するWordPress


 しかし、その流れを大きく変える動きがインドネシアにもやってきています。その起爆剤がWordPressです。WordPressはOSSのCMS(Webサイトのコンテンツ管理システム)として世界のWebサイトトップ1,000内の23%強で使用され、CMS中では60%以上のシェアを持つようになりました。

 このWordPressは、世界中の技術者がローカライズしたり機能追加したり、世界的な全員参加型の運営スタイルを確立しています。ローカライズは現地のコミュニティメンバーが行い、WordPressをよりよく活用できるように3万以上のプラグインが開発され、600カ国語以上に翻訳されています。この、「全員参加型」は新しい潮流です。少し大げさですが、従来の主流であった、ソフトウェアを開発したライセンス所有者が市場を統治する封建的なソフトウェア運営から、全員が開発に参加できる「民主的な運営」への変化の波が、WordPressを中心として世界的に起こっているのです。

 インドネシアではWordPressをビジネスに活かそうという想いがとりわけ強く、イベント会場でも日本で出てくる質問とは少し異なり、よりビジネス的な内容を多く耳にします。また、WordPressコミュニティのページやイベント自体も英語で運営されており、海外とのコミュニティ連携が強く意識されています。このように、世界でビジネスをしようという高い意識が見て取れます。この点は日本との大きな違いです。

 このコラムの1回目(http://online.sbcr.jp/2014/07/003785.html)でも紹介しましたが、インドネシアの首都ジャカルタは現在2,400万の都市人口を持ち、世界第2位になりました。国別の人口でもインドネシアは中国、インド、米国につぐ世界第4位で、人口2億3,000万人を有する大国です。自国でも市場を持ち海外でのビジネスを想定した活動をしていくことを通して、将来的に、世界に通用する製品や技術が生まれる可能性は高いと考えています。自国の市場があることで、自国内で製品や技術が鍛えられ、あらかじめ世界展開に備えた活動をしておけば、海外で成功する確率は上がります。しかも、WordPressという世界的に普及しているプラットフォームの上であれば、なおのこと普及しやすいでしょう。

インドネシアで盛り上がりを見せるWordPressコミュニティ


 最後に、そのようなインドネシアでのWordPressの盛り上がりについて紹介します。
 6月に創始者の一人であるマット・マレンウェッグ氏がインドネシアを訪れ、プライム・ストラテジー・インドネシアの主要メンバーが主宰する「3rd Jakarta WordPress Meetup - with Matt Mullenweg」に登壇しました。

WordPress創始者の一人、マット・マレンウェッグ氏。インドネシアでの模様


 講演でマット氏が強調していたテーマの1つが、「WordPressのミッションはパブリッシングの民主化」です。これは、「老いも若きも、貧困に苦しむ者も金持ちも、いつでもどこでも気軽に情報を発信(パブリッシング)できる環境を作る」ことを意味しています。つまり、スマートフォンやタブレットなどデバイスを選ばず、そして言語も選ばず、世界中の誰もが情報を発信できることを目指す、ということです。これが、同氏の定義する「パブリッシングの民主化」です。彼はこのミッションを自身のAutomattic社で実現しようと考えず、これを、世界各国に存在しているWordPressコミュニティで実現しようとしています。

 インドネシアのWordPressコミュニティのメンバーはこの呼びかけに応え、WordPress市場をインドネシアでさらに活性化しようという流れができています。なぜなら、先人が蓄積したノウハウを誰もが共有できるモデルであるOSSを活用することは、ITビジネスで欧米におくれをとったインドネシアが、その差を埋めるために有効な手段だからです。

 このように、OSSの活用こそが、日本のシステムインテグレーターが着目するべき「将来の光」なのです。もちろん日本のシステムインテグレーターもOSSを活用していますが、大半がシステムインテグレーションのためにOSSを使用しています。しかしそれでは生き残りは厳しいでしょう。OSSを活用した自社サービス・自社製品展開こそが、将来の光なのです。OSSの活用方法を理解している国、たとえばインドネシアのIT企業が、先人のノウハウを上手に活かして、いままでにない独自のプラグインを開発し、自国のソリューションとして海外へと展開していく日はそう遠くないかもしれません。

 次回は、日本のシステムインテグレーターが生き残るためのOSS活用術について解説します。

イベント終了後。マット・マレンウェッグ氏を囲むインドネシアWordPressコミュニティメンバー


(第2回・了)





本格ビジネスサイトを作りながら学ぶ WordPressの教科書2
スマートフォン対応サイト編
プライム・ストラテジー株式会社 著



【著者】中村 けん牛
プライム・ストラテジー株式会社 代表取締役。
早稲田大学法学部卒、会計士補。大手証券会社を経て、2002年、プライム・ストラテジー株式会社設立。2005年、ジャカルタにプライム・ストラテジー・インドネシアを設立して以来9年間、ジャカルタでのITビジネスに携わる。執筆した書籍『WordPressの教科書』シリーズは日本、韓国で累計3万部突破のベストセラーに。2014年秋にはインドネシアの大手コンパス・グラメディアグループよりインドネシア語で『WordPress Text Book』(仮題)を出版予定。

プライム・ストラテジー株式会社
http://www.prime-strategy.co.jp/


【協力】吉政 忠志
プライム・ストラテジー株式会社 マーケティングアドバイザー
吉政創成株式会社 代表取締役
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