カルチャー
2014年10月21日
えっ? 女性向け保険でなくても基本保障は同じ
[連載] 保険選びは本当にカン違いだらけ【2】
文・鬼塚眞子
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 ところで、家計を管理する専業主婦のなかには、「自分のために保険料をかけるのは気が引ける」と加入をためらうケースも少なくありません。

 こんな実例があります。
 「私自身、がんは気になるけど、家計に余裕がないから、私は後回しでいいわ。でも、夫の保険は万全にしたい」と考えた30代の主婦がいました。小さな子どもがいて、家族のことを本当に大切にしていた、笑顔の素敵な女性でした。

 その半年後、彼女にがんが発見されましたが、すでに手遅れの状態でした。皮肉にも治療費の負担が家計を圧迫することになり、夫に二重の苦しみを与えることになったのです。

 「ごめんなさい」と家族に謝りながら、彼女は亡くなりました。

 私も主婦ですので、自分のことはつい後回しにしてしまう気持ちは痛いほど理解できます。
 でも、お母さんの笑顔は家族にとっての宝です。家族が涙に暮れないためにも、ぜひ検討してほしいと思います。

子どもがいない家庭は年齢とともに妻のリスクも大きくなる!


 もうひとつ、妻を軸とした保険の考え方について、触れておきたい点があります。それは子どもがいない場合の遺族年金です。

 自営業の場合は、子どもがいれば遺族基礎年金が支給されますが、そうでなければ支給されません。老齢基礎年金が支給される65歳まで、生活資金をどう確保するか計画を立てておく必要があります。

 会社員の場合はどうかというと、遺族厚生年金が支給されますが、夫の死亡時の妻の年齢に大きく左右されます。
 残された妻の年齢が30歳未満なら、5年間の有期給付となります。それ以降は遺族年金の給付はありません。
 30歳以上40歳未満なら、平均標準報酬月額が35万円(加入期間25年)の場合、年間の支給額は約59万円となります。ただ、再婚すると受給権は失われます。

 同じ平均標準報酬月額で40歳以上なら、64歳までの期間は中高齢寡婦加算が適用され、年間約116万円が支給されます。
 65歳からは老齢年金も支給されますが、40年間国民年金に加入して満額受け取る場合の金額を加算しても、年間約136万円ほどです。

 子どもがいないため、将来、要介護の状態になったときの費用負担を考えると、これだけでは十分な支給額とは言えません。ちなみに金額はすべて平成26年度の計算です。今後この支給額はしばらく逓減していくと考えるのが現実的でしょう。

 これらの支給条件を整理すると、新たに配偶者を見つける可能性が高かったり、仕事を辞めずに働き続けるという選択肢があるからか、若齢の妻ほど遺族年金の支給額は低く、その逆である高齢の妻ほど支給額は高くなる傾向があります。

 それまでの仕事のキャリアや親族の扶助の有無などにもよりますが、子どものいない40歳以上の妻が残された場合、専業主婦の期間が長いほど再就職は容易ではなく経済的将来のリスクは一気に大きくなります。
 そうなると、保険について取り上げる記事などでよく目にする「子どもがいなければ必要保障額は最低限で十分」という見方は、あくまで若齢を想定した場合に限ると言えるのではないでしょうか。

 子どもはなくとも、「妻もフリーランスとして特殊なスキルを持ち、もともと家計も別。バリバリ稼いでいるから不安はない」「大手企業に長年勤めているから、俺がいなくなっても経済的な痛手はないだろう」「妻の実家は大地主で、相続する資産がたっぷりあるから」という夫もいるかと思います。しかし必ずしもそういう家庭ばかりではありません。

 子どものいる家庭は、子どもの成長につれて必要保障額は減っていきます。
 しかし、子どものいない家庭は「妻」を中心に考え、残される者としてのリスクと必要保障額はむしろ上がっていく、という保険の見直し方が今後は必要となるでしょう。

(第2回・了)





保険選びは本当にカン違いだらけ
20年後に後悔しない保険常識
鬼塚眞子 著



【著者】鬼塚眞子(おにつかしんこ)
大手生保会社の営業職、業界紙の記者を経て、2007年に保険ジャーナリスト、ファイナンシャル・プランナー(FP)として独立。保険業界と商品に精通し、保険営業とFP資格のある、日本では稀有な存在の保険ジャーナリストとして知られている。2010年、保険業界活性化を図るため、保険のすべてのチャネルを横断する「オーツードットコム 保険業界の明日を考える会」(現、トリプルA)を主宰。マスコミ出演、執筆、講演、相談で幅広く活躍中。近著は『保険選びは本当にカン違いだらけ』(SB新書)
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