カルチャー
2014年12月4日
【日本海海戦秘話】グラスゴーでつくられた戦艦「三笠」と砲身の秘密
[連載] 大局を読むための世界の近現代史【1】
文・長谷川 慶太郎
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日英同盟終焉につながった日本陸軍の派兵問題


 このように、日英同盟は日露戦争を勝利へと導き、日本を一等国にするための大きな足がかりとしました。ところがこの同盟は、イギリス側の強い不信感により、第一次世界大戦後に破棄されてしまいます。そのきっかけとなったのが、第一次世界大戦における派兵問題でした。

 第一次世界大戦が始まると、日本は日英同盟に基づきドイツに宣戦布告します。ドイツが中国から得た青島の要塞を攻撃・占領し、さらにドイツが支配していた西太平洋上の南洋諸島も占領します。一方で参戦国からの軍需品発注が相次ぎ、日本列島に「大戦景気」と呼ばれる空前の好景気が到来します。日本が農業国から本格的な工業国へと様変わりしたのも、この大戦景気がきっかけでした。

 一方、ヨーロッパでは戦局が泥沼化し、ついにイギリスも周辺諸国や同盟国に助けを求めます。このとき、ポルトガルなどイギリスの同盟国が次々と参戦しましたが、日本陸軍は日英同盟で多大な恩恵を受けておきながら、結局最後まで派兵要請に応じませんでした。

 なぜ日本陸軍は、ヨーロッパに兵を送らなかったのか。それは当時の日本陸軍の最高指導者だった山県有朋、さらには寺内正毅といった連中が、強硬に反対したからです。山県が欧州派兵を拒んだのは、当時の西ヨーロッパがすでに男女平等のシステムで動いており、こうした考えが日本に入ってくるのをおそれていました。当時の日本には男尊女卑の考えが根付いており、山県はこの体制が崩れるのを嫌っていたのです。

 これに対し、日本海軍は連合国側の艦船を護衛するため、特務艦隊を地中海などに派遣しています。しかし、日本陸軍は最後まで動きませんでした。

現代に照らし合わせて考えられる教訓


 結局、こうした日本側の姿勢がイギリスの対日不信を招き、1923年、期限満了による「日英同盟破棄」へと至ったのです。仮にこのとき、日本陸軍が西部戦線に兵を送っていれば、近代戦のすさまじさを体感し、「現状の体制のままでは、日本はいつか敗れる」という危機感を抱くチャンスがあったからです。そして軍を近代化しておけば、第二次世界大戦の敗戦という悲劇も起こらなかったはずです。

 基軸通貨国であるイギリスとの同盟が破棄されたことで、日本は国際社会から孤立の道を歩んでいきました。これは当時の日本政府及び軍部が、日英同盟の重要性をよく認識していなかったことが招いた"悲劇"ともいえます。

 この教訓は、現在日本が置かれている状況にも当てはめることができます。日本は半世紀以上にわたり日米安保条約を結び、アメリカをもっとも重要な同盟国としています。またアメリカも、共産党の一党独裁体制が続く中国との「冷戦」に勝つため、日本を必要としています。

 今、同じ基軸通貨国であるアメリカとの関係を遮断するということは、日本が再び同じ過ちをおかすことにほかならないということを、深く認識しておかなければなりません。

(第1回・了)





大局を読むための世界の近現代史
長谷川慶太郎 著



長谷川慶太郎(はせがわけいたろう)
国際エコノミスト。1927年京都府生まれ。1953年、大阪大学工学部卒。新聞記者、雑誌編集者、証券アナリストを経て独立し、現在まで多彩な評論活動を展開している。この間、1983年に『世界が日本を見倣う日』(東洋経済新報社)で第3回石橋湛山賞を受賞するなど、政治・経済・国際情勢についての先見性にあふれる的確な分析を提示、日本経済の動きを世界的、歴史的な視点を含めて独創的に捉え続けている。『長谷川慶太郎の大局を読む』シリーズ(李白社)、『中国崩壊前夜 北朝鮮は韓国に統合される』(東洋経済新報社)、『大破局の「反日」アジア、大繁栄の「親日」アジア そして日本経済が世界を制する』(PHP研究所)など著書多数。近著は『大局を読むための世界の近現代史』(SBクリエイティブ)。
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