ビジネス
2014年12月11日
インドネシアに見るITビジネスの将来像(その2) ~ソフトウェアの工業化がSIビジネスの未来を拓く~
[連載] ジャカルタで働く社長のコラム【3】
文・中村 けん牛/協力・吉政 忠志
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WordPressがソフトウェアの工業化を促す


 ソフトウェアの工業化の歴史は古く、考え方としては20年以上も前から存在します。しかし過去のすべての施策は構想止まりだったり、ふたを開けてみればソフトウェアの工業化になっていなかったりでした。

 ソフトウェアの工業化においては、部品を作る人、完成物を設計する人、部品を組み立てる人、検査する人に分類され、それぞれが個別に専門のスキルを持ちます。従来の取り組みのほとんどが、結局部品が部品ではなく「半部品」ばかりで、開発者でないと部品を組み合わせられないという結果になっていました。この分業が完璧にできると、部品を作る人は部品製作、検査人は検査、組み立て者は組み立ての学習をするだけでよくなるので、業界全体の教育費が削減されます。いまのソフトウェア産業は、エンジニアが部品作成から組み立て、検査、場合によっては設計までを担当するために、かなり長い間学習し、経験を積み成長していく必要があります。これはひいては、学習が長期化し、教育投資の回収遅延につながります。教育コストが削減され、各工程の作業者が専門のスキルを高めることで、成果物の構築コストが全体的に下がり、業界全体のコスト効率が高くなります。業界全体のコスト効率が高まれば、その業界の競争力が向上し、業界全体が活性化します。このソフトウェアの工業化を実現できる現時点での最有力のソリューションが、WordPressであると考えています。

ソフトウェアの工業化を手にするチャンスが、いま、きている


 たとえば、WordPressのプラグインの場合、WordPress上で稼働するプラグインを作れば、世界中のWordPressで稼働するようになります。無料化して広め、ブランドを高めたり、市場貢献することもできます。また賛否両論ありますが、プラグインを有料化して利益を得ることが、どこの誰にでもできるようになります。お客様がまったく存在しない絶海の孤島にいても、ネットさえつながれば開発したプラグインを提供し、なんらかの利益を得ることができます。

 日本市場におけるWordPressのCMSシェアは80%を超えています(W3C Tech 2014年9月)。それくらいWordPressが流行っている日本市場でも、フルスクラッチのWebサイトの市場のほうがまだまだ多く、Webサイトに数千万~数億円をかけているビジネスがいまだ存在しています。これらのWebサイトはWordPressを活用することで大幅なコスト圧縮が実現できます。にもかかわらず、フルスクラッチのWebサイトはまだまだ多いです。いままで投資してきた分、スクラップ&ビルドで切り替えるのは、心理的にかなりの決断が必要だからでしょう。

 日本はこのような状況ですが、インドネシアは違います。フルスクラッチの受託開発が主流ではなく、WordPressのようなCMSやクラウドなどの時代からコンピューティングがはじまっているので、最初からITコストが日本ほど高くはありません。

 ITを活用してITへの投資を安価に済ませるとどのようなメリットが得られるか、想像してみてください。恐らく、次のようになるはずです。

1.納期が短くなる(すぐに新しいITシステムを活用できる)
2.担当者の負担が軽減される(何度も繰り返し行われる会議と報告資料の山からの解放)
3.上記2点によりITを活用した経営戦略を実現しやすくなる

 当たり前すぎることではありますが、これこそがあるべき姿にもかかわらず、日本の企業が実現できていないことではないでしょうか。

 フルスクラッチでの開発には良いところもありますし、理屈を並べればそれらしいロジックも作れます。しかしもう、そんな時代ではありません。WordPressを活用して大型のサイトを短期間、ローコストで構築できた事例は多く出てきています。そもそもIT業界の会社でITを活用して短納期、ローコストを実現できないのは、おかしいと思いませんか? もし、この読者の中に、サイト構築に数千万円~数億円をかけてフルスクラッチで開発している会社があれば、WordPressに強い会社に見積りを取ってみてください。そこに、いままでとは違う常識が存在することに気付くはずです。

 また、システムインテグレーター側の方がこのコラムを読んで思うところがあれば、WordPressを活用したプラグインビジネスを考えてみてはいかがでしょうか。巨大な市場を持つ稼働環境で、新たなビジネスが展開できるようになります。ぜひご参考ください。

(第3回・了)





本格ビジネスサイトを作りながら学ぶ WordPressの教科書2
スマートフォン対応サイト編
プライム・ストラテジー株式会社 著



【著者】中村 けん牛
プライム・ストラテジー株式会社 代表取締役。
早稲田大学法学部卒、会計士補。大手証券会社を経て、2002年、プライム・ストラテジー株式会社設立。2005年、ジャカルタにプライム・ストラテジー・インドネシアを設立して以来9年間、ジャカルタでのITビジネスに携わる。執筆した書籍『WordPressの教科書』シリーズは日本、韓国で累計3万部突破のベストセラーに。2014年11月にはインドネシアの大手コンパス・グラメディアグループよりインドネシア語で『WordPress Panduan Mambangun Situs Web Berskala Bisnis』を出版。

プライム・ストラテジー株式会社
http://www.prime-strategy.co.jp/


【協力】吉政 忠志
プライム・ストラテジー株式会社 マーケティングアドバイザー
吉政創成株式会社 代表取締役
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