ビジネス
2014年12月19日
折れない心「レジリエンス」を鍛える7つの技術【後編】
[連載] なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?【3】
文・久世浩司
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レジリエンスを鍛える7つの技術【5】心の支えとなる「サポーター」をつくる


 どれほど自分に自信があり、強みをもっていても、ときに私たちはくじけそうになります。そんなときに欠かせないのが、心から信頼できる人の存在です。これがレジリエンス・マッスルを鍛える第三訓練法である「ソーシャル・サポート(社会的支援)を形成する」です。

 いざというときに心の支えとなり適切な支援をしてくれる貴重な存在のことを、私は「サポーター」と呼んでいます。

 サポーターとなる相手は、実にさまざまです。たとえば、夫婦や兄弟、親子などの家族があります。おじいちゃんやおばあちゃんにとっては、孫の存在が心の支えとなります。

「孫の結婚式までは元気でいたい」と願う高齢者も少なくありません。

 他にも困ったことがあれば、すぐに駆けつけてくれる友人、損得抜きで叱咤激励してくれる先輩、そばにいるだけで安心感を与えてくれる家族、または落ち込んでいるときになでるだけで傷ついた心を癒やしてくれるペット......。心の支えは、人それぞれです。

 サッカーの日本代表選手が「ピッチにいる選手は11人だが、12人目の選手がいつも応援してくれるサポーターだ」と話すことがあります。ホームの試合では、多くのサポーターが駆けつけその声援に囲まれて戦うせいか、おのずと勝率が高まります。これもサポーターが試合中の数々の逆境やプレーの失敗を乗り越える際の、心の支えとなるからでしょう。

 職場では、上司や同僚、先輩やメンターがいます。経営者や個人でビジネスを営んでいる人には、コンサルタントやコーチ、弁護士や税理士などの相談者が心の支えとなります。

 病というのも、私たちが避けられない逆境です。自分の病気や家族が病に見舞われたときにサポーターとなるのは、信頼できる医師や看護師の存在でしょう。または「この子のためであればこの逆境を乗り越えてみせる」と感じさせる我が子も、病時のサポーターです。

 私はいざというときに心の支えとなるサポーターを最低5人もつことを、おすすめしています。逆境の種類によって誰の助けを請うべきかが違うこと、そしてサポーターとはお互いに助け合う「互恵関係」をもつことが望ましいのですが、助け助けられるには片手の指の5人が精いっぱいではないかと考えるのがこの数の理由です。

 ところが「サポーターは誰ですか」と質問しても、その名前を思いつけない人がかなりいます。特に中年以上の男性に多いのですが、これは危険です。なぜなら、40代を超えて人生の折り返し地点を迎える頃に「中年の危機」に直面することがあるからです。そのときに誰にも頼ることができずに孤立すると、心がポキリと折れてしまう。

 平時のうちにサポーターとの関係づくりをしておくことが、有事への備えとなるのです。

レジリエンスを鍛える7つの技術【6】「感謝」のポジティブ感情を高める


 レジリエンス・マッスルを鍛える第四訓練法が、意外かもしれませんが感謝の気持ちを高める習慣をもつことです。

 たとえば、仕事で計画が頓挫して挫折感に包まれることがあります。そんなとき、「私が悪かった」「人に迷惑をかけて申し訳ない」と考えて自分を責め続けると、自責の念が高まり「罪悪感」というネガティブ感情に悩まされます。罪悪感は憂鬱感や自尊心の低下につながり、私たちのレジリエンスの機能を脆弱化させます。そんなときに役に立つ心理的資源が、ネガティブ感情とは真逆の「感謝」というポジティブな感情なのです。

 ポジティブな感情にはネガティブな感情を「帳消し」する働きがあることがわかっています。つらく嫌なことが会社であったとしても、プライベートで自分が心から楽しめるような趣味をもっていると、気持ちを切り替えることはできませんか? これは、楽しさや希望というポジティブ感情が不安などのネガティブ感情をリセットしてくれるからです。

 そして常日頃から「感謝」を豊かにする習慣をもつことで、レジリエンスの特徴の一つである「ストレスに対する緩衝力」を強化することも期待できます。感謝が豊かな人は、打たれ強い人でもあるのです

 感謝の感情は、どんなときに生まれるか、ご存じですか? それは主に、

(1)人から助けてもらったとき
(2)よい機会に恵まれたとき

に生まれます。つまり、感謝の対象となるのは、自分に親切にしてくれた人か、自分に恩恵を与えてくれた天や神様なのです。

 では、恩人や神様にどのように感謝の念を伝えればいいのでしょうか?

 研究で非常に高い効果があると確認された手法が「感謝の手紙」です。便せんを一枚用意して、親しかったがゆえに言葉で表現することのなかった恩人に手紙で感謝の気持ちを伝えるのです。

 文章を書くのは、内省の訓練になります。手紙をもらった相手も、文字で伝えられたほうが口頭よりも重みを感じるものです。

 そしてこの「感謝の手紙」のメリットは、何よりも手紙を執筆する本人にあります。感謝の気持ちを書面に表すだけで、感謝の感情が充分に高まることが研究で明らかになっています。手紙を送るのが恥ずかしい場合は、書くだけでも結構です。感謝の手紙は、書くことに意味があります。ぜひあなたの「サポーター」の一人に書いてみてください。






なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?
実践版「レジリエンス・トレーニング」
久世浩司 著



【著者】久世 浩司(くぜ こうじ)
ポジティブ サイコロジー スクール代表。慶應義塾大学卒。P&Gにて、高級化粧品ブランドのマーケティング責任者としてブランド経営、商品・広告開発、次世代リーダー育成に携わる。その後、ポジティブ心理学、及びレジリエンスを活用した人材育成に従事。NHK「クローズアップ現代」で「折れない心の育て方・レジリエンスを知っていますか?」にてレジリエンス研修が放映された。著書に『「レジリエンス」の鍛え方』『親子で育てる折れない心 レジリエンスを鍛える20のレッスン』(実業之日本社)『なぜ一流の人はハードワークでも心が疲れないのか』(SBクリエイティブ)がある。認定レジリエンス マスタートレーナー。
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