ビジネス
2014年12月19日
折れない心「レジリエンス」を鍛える7つの技術【後編】
[連載]
なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか?【3】
文・久世浩司
レジリエンスを鍛える7つの技術【7】痛い体験から意味を学ぶ
ハードに仕事をしていると、仕事が多く集まりやすくなるでしょう。仕事に対して懸命な姿を見せる人には、仕事を頼みたくなるからです。上司から無理難題を与えられたり、まだ経験が浅いにもかかわらず重要な案件を任されたりすることもあるでしょう。その結果、失敗することも逆境に直面することも多くなります。しかし、それはある意味で恵まれているのかもしれません。職場がレジリエンスを鍛える「道場」となるからです。
私が新卒で入ったP&Gという会社は、若手に大きな仕事を任せて人を育てる社風があり、20代のうちから何十億円という予算の管理を任されて、いつも緊張と重圧を感じてハードに働いていました。ただ、今その体験を振り返ると、若いうちに上司や会社から鍛えられたことが後で役に立っていることに気づき、恵まれていた境遇に感謝しています。
ハードワークを常としている人は、いつも走り続けていると思いますが、ときおり立ち止まって逆境と感じられていた体験を振り返る「自省の時間」は、とても意味があることだと思います。これがレジリエンスのステップ3である「教訓化」につながり、レジリエンスを高める第7の技術である「痛い体験から意味を学ぶ」を活用することができます。
これは精神的に痛みを感じるようなつらい逆境体験から次につながる意味を学び、将来のネガティブな出来事に備えることです。
その逆境が失敗体験であれば、この教訓化の必要性は明らかです。失敗の原因を追求し、解決策を実行することで、次の失敗を防止することが望まれます。それが人間関係の逆境であれば、その痛い体験から今後どんなタイプの人とつきあうべきかがおのずと見えてくるでしょう。または、自分がつきあうべきでないタイプの人になぜか引き寄せられていたという役に立たない行動のパターンが明らかになるかもしれません。
「痛い体験から意味を学ぶ」ためには、その体験を「見える化」するために「逆境グラフ」を描くことをおすすめします。私が行うレジリエンス・トレーニングでは、受講者にA3の画用紙とマジックペンをお渡しし、縦軸に意欲・充実度の心理状態、横軸に時間軸を設定して、過去から現在における主観的な流れをグラフにして描いてもらいます。
その「逆境グラフ」を一歩離れて「鳥の目」になって眺めると、その体験に隠されていた意味や共通のパターンが見出せることがあります。当時は精神的な痛みのために気づかなかった意味や意義が、浮き彫りになるのです。
一人で行うセルフワークもいいのですが、信頼できるカウンセラーやコーチがいれば、問いかけをしてもらいながらこの演習を行うと、新たな視点や知恵を得られます。
ストレスや変化に適応して「自己管理」する力を手に入れよう
さて、ここまで「レジリエンス・トレーニング」で私が教えている逆境力を高めるため の7つの技術をご紹介しました。
◎ステップ1「底打ち」
・第1の技術:ネガティブ感情の悪循環から脱出する
・第2の技術:役に立たない「思い込み」を手なずける
◎ステップ2「立ち直り」
・第3の技術:「やればできる」と信じる自己効力感を身につける
・第4の技術:自分を特徴づける「強み」を活用する
・第5の技術:心の支えとなる「サポーター」をもつ
・第6の技術:感謝のポジティブ感情を豊かにする
◎ステップ3「教訓化」
・第7の技術:痛い体験から意味を学ぶ
ハードに仕事をしている人、特にまじめでがんばりやな人は、ストレスやプレッシャーを感じ、組織や業界の変化も激しい職務に就いていることが多いと思います。そのたびに、心身が疲労し、いつもよりネガティブになり、「ストレスの多い会社が問題だ!」「上司が悪い!」と批判したくなることもあるでしょう。
ただ、会社の人事や上司がいくらがんばっても、業務上のストレスを減らすことには限界があります。また、仕事においては、耐えなくてはいけないストレスや乗り越えなくてはいけない問題があるのも事実です。
ダボス会議でも「現状維持」から「変化や危機は避けられないと捉え、自ら適応する力をもたなくてはならない」という認識の変化が起きたように、今後私たちが働く職場でも、ストレスや変化に抵抗するのではなく、それらに適応して「自己管理」できる人材が求められると思われます。セルフマネジメント力がない人は、生き残れない時代がそこまで来ているのです。
(了)
[連載]なぜ、一流の人はハードワークでも心が疲れないのか? 記事一覧
[1]いま企業や学校が注目している「レジリエンス」ってなんだ?
[2]折れない心「レジリエンス」を鍛える7つの技術【前編】
[3]折れない心「レジリエンス」を鍛える7つの技術【後編】
[1]いま企業や学校が注目している「レジリエンス」ってなんだ?
[2]折れない心「レジリエンス」を鍛える7つの技術【前編】
[3]折れない心「レジリエンス」を鍛える7つの技術【後編】
【著者】久世 浩司(くぜ こうじ)
ポジティブ サイコロジー スクール代表。慶應義塾大学卒。P&Gにて、高級化粧品ブランドのマーケティング責任者としてブランド経営、商品・広告開発、次世代リーダー育成に携わる。その後、ポジティブ心理学、及びレジリエンスを活用した人材育成に従事。NHK「クローズアップ現代」で「折れない心の育て方・レジリエンスを知っていますか?」にてレジリエンス研修が放映された。著書に『「レジリエンス」の鍛え方』『親子で育てる折れない心 レジリエンスを鍛える20のレッスン』(実業之日本社)『なぜ一流の人はハードワークでも心が疲れないのか』(SBクリエイティブ)がある。認定レジリエンス マスタートレーナー。
ポジティブ サイコロジー スクール代表。慶應義塾大学卒。P&Gにて、高級化粧品ブランドのマーケティング責任者としてブランド経営、商品・広告開発、次世代リーダー育成に携わる。その後、ポジティブ心理学、及びレジリエンスを活用した人材育成に従事。NHK「クローズアップ現代」で「折れない心の育て方・レジリエンスを知っていますか?」にてレジリエンス研修が放映された。著書に『「レジリエンス」の鍛え方』『親子で育てる折れない心 レジリエンスを鍛える20のレッスン』(実業之日本社)『なぜ一流の人はハードワークでも心が疲れないのか』(SBクリエイティブ)がある。認定レジリエンス マスタートレーナー。