スキルアップ
2015年3月2日
決算書を読むコツは、目の運び方にあった!
文・前川 修満
決算書は、「下から読む書類である」
筆者は長年にわたって、決算書の読み方に関するセミナーの講師を務めてきました。
受講者の大半は、経営者であったり、普通のサラリーマンであったりするのですが、セミナーを受講する前、彼らは一様に、「決算書を読むのは難しいもの」という先入観をもっていました。
筆者はこれらの人々に対して、決算書がいかにやさしい書類であるかを伝えてきました。
その際にお伝えしたことは、決算書は上から読まずに、まず下の項目から読む、ということです。
普通、決算書を手にした人は、これを一番上の項目から順番に読もうとしてしまいます。
たいていの場合、書類というのは、一番上から読むものなので無理もありません。
しかし、決算書は、上から見る書類ではないのです。
たとえば、損益計算書を見るとき、上のほうに記載してある項目をすっ飛ばして、下のほうに記載されている「当期純利益」を真っ先に見るべきなのです。
そうです。決算書とは下から読む書類なのです。
損益計算書は、会社が1年間でいくら儲けたかを示す書類です。
大事なことは、会社が黒字なのか赤字なのか、黒字であればいくら儲かったのかです。
それは、一番下に記載されている「当期純利益」に表示されています。
これを何よりも先に見ればいいのです。
ところが、真面目な人ほど損益計算書の項目を上から順番に読もうとして、途中の項目でわからなくなり、一番下の「当期純利益」にたどり着く頃にはくたびれてしまうのです。
損益計算書は真っ先にいちばん下の「当期純利益」を見る
図に示したのは、平成25年3月期における東京電力の損益計算書です。
これは一見、複雑な書類のような気がします。
しかし、これを頭から順番に読んではいけないのです。
この年、東京電力は6943億円もの大きな損失(赤字)を出しましたが、それは、一番下のところに記載されているのです。
ですから、何よりも先に、ココを見てほしいのです。
「当期純利益」よりも上にある項目は枝葉末節であって、やや極端な言い方をすれば「当期純利益」を示すための計算過程にすぎないのです。
どんな書類もそうですが、結論だけを書かれても説明不足は免れないので、その経緯や計算過程が記載されます。
しかし、大事なのは結論なのであって、まずは結論部分に目をやり、これを知ったうえで、具体的な経過説明に目を移すのが賢明なのです。
「東電はこの1年で6943億円もの赤字を出した」ということを後回しにして、「東電のこの1年は、電灯料が2兆3351億円で、電力料が3兆403億円で、地帯間販売電力料が1157億円で、他社販売電力料が339億円で......」などと上の記載項目から順番に読んでいくのは、いかにも、迂遠だと言わざるを得ません。
これは比喩になりますが、人間は人を見るとき、相手の体の上から順番に見ていくということをしません。
たとえば、最初に相手の髪の毛先を見て、次に髪の毛の生え際に目をやって、おでこのしわの具合を見て、眉毛を見て、まぶたの垂れ具合を見て......などという見方をする人はいません。そんなことをしても疲れるだけです。
人間が最初に人を見るとき、真っ先に見るのは相手の「目」です。「目は口ほどに物を言う」という言葉がありますが、損益計算書では、その「目」にあたるのが、「当期純利益」なのです。
それは、損益計算書の一番下に記載されています。
ですから、何よりも先に一番下に示されている当期純利益に目をやり、そのあとで上の項目に目を移して読むのが、会社の業績を知るうえで、何よりも重要なことなのです。
【著者】前川 修満(まえかわおさみつ)
1960年金沢市生まれ。公認会計士・税理士。日本証券アナリスト協会検定委員。同志社大学卒。澁谷工業、KPMG港監査法人(現、あずさ監査法人)を経て、フリーに。2006年にアスト税理士法人を設立。代表社員に就任し、現在にいたる。日本税務会計学会会員。著書に『決算書はここだけ読め!』『危ない会社は一発でわかる』(以上、講談社)、近著に『決算書は「下」から読む、が正解!』(SBクリエイティブ)などがある。
1960年金沢市生まれ。公認会計士・税理士。日本証券アナリスト協会検定委員。同志社大学卒。澁谷工業、KPMG港監査法人(現、あずさ監査法人)を経て、フリーに。2006年にアスト税理士法人を設立。代表社員に就任し、現在にいたる。日本税務会計学会会員。著書に『決算書はここだけ読め!』『危ない会社は一発でわかる』(以上、講談社)、近著に『決算書は「下」から読む、が正解!』(SBクリエイティブ)などがある。