カルチャー
2015年10月30日
知れば安心! ロシアビジネス──プーチン大統領の85%、ロシア人気質とは?
[連載] “レアメタル王”の世界裏読み・逆読み・斜め読み【4】
文・中村繁夫
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逆さ地図から見る日露関係の新発想


富山県HPより

 今年の8月にはプーチン大統領が北方領土を訪問しているが領土交渉の実現を考えているとの見方も多い。その後も9月3日~5日まで、極東ウラジオストクで経済フォーラムを開催した。プーチン大統領が自ら極東開発について日本の資本投資や技術協力についての可能性を打診したが、日本からの参加者よりも中国や韓国からの参加者の方が多かった。

 プーチン大統領の本音は中国でもなければ韓国でもないのに日本人はあと一つロシアに対して拭いきれないような誤解があるようにも見える。井上靖の小説『おろしや国酔夢譚』主人公の大黒屋光太夫がエカテリナ2世に謁見した時からも日本政府はロシアには冷淡であった。海外情勢を豊富に知る光太夫は生涯軟禁されて一生を送ったようだ。当時から日本は大陸からの視点を持つという事はなかったようだ。

 日本から見た極東の地図を逆さにするとロシアにとって日本列島がいかに重要であるかが理解できる。日本人でこの逆さ地図を見れば、シベリア開発が大変身近なものだとわかるのだが、自由貿易を標榜する産業人ですら、いまだにロシアからの視点で発想する人物は少ないように思うのは私だけだろうか?

日本に最も近い欧州沿海州にエルミタージュやプーシキン美術館を移設せよ


 日本の資本や技術提供なしに極東経済の発展はないことは明らかで、極東共同開発のテーブルに、北方領土のカードをロシアは乗せたくて仕方がないのである。ロシアの友人に聞いたところ日本を嫌いなロシア人など滅多にいないが、日本人はなぜかロシアを誤解していると言っている。そんな誤解を解くためには双方の交流を進めるしか王道はないように思われる。

 例えば、今年の9月の経済フォーラムが行われたウラジオストックは新潟から飛行機でたった1時間半のところにある。成田からの直行便もある。2時間10分のフライトである。日本からの一番近いヨーロッパなのに日本人旅行客はサッパリである。

 私自身はこれまでロシアには60回以上の訪問をしているが、ロシア人ほどおおらかで親日的な国民はそうはいない。表面的にはとっつきが悪いから日本人が誤解しているのである。この際、産業面の協力だと言っても時間ばかりかかるからロシア文化で交流を進める事を提案したい。

ロシア民謡を歌い踊ってくれた大使館の子供たち

 今年の3月4日に東京の学士会館で「ロシアセミナー」を開催した時のことである。私の勝手なお願いでロシアのアファナシエフ大使にロシア民謡を大使館の子女に歌って貰う事を依頼した。大使は快く私の願いを聞き入れてくれた。その結果、会場には素晴らしい友好の輪が広がった。

 この発想をさらに広げるなら、サンクトペテルブルグのエルミタージュ美術館やモスクワのプーシキン美術館やトレチャコフ美術館のコレクションを極東のウラジオストックやハバロフスクに時々持ってきて展覧会をして貰いたい。

 さらにモスクワのボリショイ劇場を夏の間だけでも極東で公演してくれたら芸術好きの日本人がロシアに喜んで大挙して訪問することは確実だ。私にしてみれば「少なくとも北方領土の返還よりも簡単ではないか」と思うがプーチン大統領は何と答えるだろうか?

第2回ロシアビジネス交流会では何が起こるか分からない


 そんなこともあって日露の友好関係をさらに深めるために、来る11月12日に第2回ロシアビジネス交流会というイベントを企画している。目的は日露の経済関係を深化させることであるから私の尊敬している著名な日露の経済人を招聘して行われるものである。

 すでに書いたように今年の3月4日にも東京でロシアセミナーを行って大成功している。この事実を見ても分かるが、日本人の多くの経済人は日露取引を期待していることは明らかなのだが、何から手を付けるべきなのかが分からないのである。私の答えは単純明快である。まず会ってみて、話してみて、意見交換から疑問を出してみて、ロシア人の反応を見れば何事も簡単に理解できるはずである。

 無論、複雑な問題もあるだろうが、政治的な領土問題は棚上げにしてまずは経済関係をスタートさせることから始めればよいだけの話である。

 今回のパネルディスカッションでは不肖ながら私が司会を務めさせて頂く。 タイトルは「大国ロシアのこれからとビジネスチャンス」である。参加いただく論客は以下の先生である。下斗米伸夫(法政大学)、谷本正行(国際協力銀行 資源ファイナンス部門 石油・天然ガス部長)、Alexander Vladimirovich Kravtsov(YAR Bank 会長)、司会:中村繁夫(アドバンストマテリアルジャパン)

 経済を知るためには総合的な分析が必要になってくるから色んな議論がなされるだろう。ロシア人はもちろん、ロシア通が多く集まることになると思う。情報、人脈を一挙に強化できるいい機会であり、本当のロシアの状況を勉強できるチャンスなのでぜひご参加をご検討頂ければ幸いである。無論、今回はさらにバージョンアップして一緒にロシア舞踊やロシア音楽も企画している事は言を待たない。

 なお、拙著『中国との付き合い方はベトナムに学べ』(SB新書)では、ロシアなど大国相手にうまく立ち回るベトナムの事情をふれている。あわせてご一読いただければ幸いである。

※本記事は、ウェブマガジン「WEDGE Infinity」掲載の連載記事を再編集したものです。






中国との付き合い方はベトナムに学べ
中村繁夫 著



【著者】中村繁夫(なかむらしげお)
京都府生まれ。大学院在学中に世界35カ国を放浪。専門商社の蝶理に入社し、以後30年間レアメタル部門で輸入買い付けを担当する。2004年、部門ごとMBOを実施し、日本初のレアメタル専門商社アドバンストマテリアルジャパンの代表取締役社長に就任する。「レアメタル王」として、世界102 カ国で数多くの交渉を経験するなかで、ベトナム人の交渉術が日本人に参考になることを説く。近著は、『中国との付き合い方はベトナムに学べ』(SBクリエイティブ)。
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