スキルアップ
2017年8月9日
ハーバードの学生は10冊しか本を読まない?
文・鳩山 玲人
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何でも要約したがる日本人


 日本とアメリカでは、読書感想文の書き方にも違いがあります。

 日本の読書感想文は、ご存じのとおり、「要約と感想」によって構成されています。
 この本のあらすじはこうです、この部分について、私はこう思いました、と書くのが一般的です。
 ところがアメリカの読書感想文は違います。まず要約はなくてもかまいません。
 感想についても、感情がどう動いたかではなく、「この本の内容を踏まえて、自分はどのようなリアクションを取ろうと思ったか」について書かれます。

 日本の国語教育の根源は、正しい理解・解釈にあると前述しました。一方、アメリカの国語教育の根源は、「自分の意見を持つ」ことにあると、私は考えています。アメリカ人は、子供のころから、「自分だったらどうするのか」を考えるトレーニングを積んでいます。本を読むときも、物語の登場人物と自分を重ねながら、「自分ならどうするか」を考えながら読んでいるのです。

 ですから、ビジネススクールのケース(事例)に結論や正解が書かれていなくても、アメリカ人には抵抗がありません。自分の頭で、物語のその先を考えることが習慣化されているからです。

 私自身も、ビジネス書に書かれた事例をケースとして見立て、自分のビジネスに置き換えながら、戦略を構築したことがあります。

 『ビジネスで一番、大切なこと』(北川知子・訳/ダイヤモンド社)の著者、ヤンミ・ムン教授は、マイケル・E・ポーターやクリステンセンと並び、HBSで人気の女性経営学者です。HBSではスターバックスのブランディングのケースで有名で、ユニリーバや楽天、ジェシカ・アルバのオネストカンパニーの取締役も務めています。
 教授が、本書の中で指摘している重要な一説は次の一文に集約されます。

「競争相手に目を向けてばかりいると、結果的に、似たり寄ったりのモノを生み出してしまう」

 ビジネスにおいて競合他社の特徴を研究することがありますが、そのことで自社が備えていない要素にばかり目が行き、自社の弱いところを補おうとする発想に陥ってしまいます。消費者にアンケートを取って競合比較を行うと、他社の長所に追いつきながら、お互いはどんどん似通ってしまう結果になるのです。

 ヤンミ・ムン教授は、どんなブランドも創造的な考え方を取り入れることで理想型のブランドを確立できると説いています。そして、「真の差別化」の手法をいくつか紹介しています。
 この本には、グーグル、IKEA、ジェットブルー(航空会社)、ソニーAIBO、スウォッチ(時計)、シルク・ドゥ・ソレイユ、アップル、ベネトン、ハーレーダビッドソンなどの事例が掲載されています。

 私はこれらの事例を「ハローキティのブランドを構築するにはどうすればいいか」を考えるヒントにしながら、読みました。実際、私がサンリオ時代に、ルイ・ヴィトンを抱えるLVMHグループのセフォラやスワロフスキーなどとコラボレーションしてハローキティの商品をつくったのも、「ライセンス供与を通じたコラボレーションこそ、ブランド戦略に有効である」というこの本の教えを、自らのビジネスに置き換え、実践したからです。



世界のエリートは10冊しか本を読まない
鳩山 玲人 著



鳩山玲人(はとやま・れひと)
1974年生まれ。鳩山総合研究所 代表取締役。スタンフォード大学客員研究員。元サンリオ常務取締役。 青山学院大学を卒業後、三菱商事に入社。エイベックスやローソンでエンタテインメント事業に従事。2008年にハーバード・ビジネススクールでMBAを取得。同年、サンリオに入社。サンリオで海外事業を拡大し、サンリオ メディア&ピクチャーズ・エンターテインメントのCEOとして映画事業にも従事し、2016年6月に退任。DeNA、LINE、ピジョン、トランスコスモスの社外取締役を歴任。現在、シリコンバレーのベンチャーキャピタルであるSOZO VENTURESのベンチャーパートナーや、Youtuberを束ねるUUUMのアドバイザーも務めている。米国経済誌「Business Insider」より、フェイスブックのシェリル・サンドバーグや政治家のミット・ロムニーと並んで「ハーバード・ビジネススクールの最も成功した卒業生31人」にも選出される。シリコンバレーにあるベンチャーキャピタリストの核にある先鋭組織、Kauffman Fellowsメンバー。 著書に『桁外れの結果を出す人は、人が見ていないところで何をしているのか』(幻冬舎)、 『ブロックバスター戦略』(監訳・解説/東洋経済新報社)、『世界の壁は高くない』(廣済堂出版)、『世界のエリートがやっている どこでも通用する実力がつく仕事筋トレーニング』(サンマーク出版)がある。
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