スキルアップ
2017年9月7日
練習問題で「インチキにダマされない」思考力を身につけよう
文・福澤 一吉
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人は「自分に都合のよい事実」しか見ない傾向がある


 では、「4枚カード問題」を検証してみましょう。「文字が母音なら、裏の数字は偶数である」という仮説は「AならばB」という形になっていますね。ですから、AのときにBであることの確認はどうしても必要です。ですから、

【母音のカード「E」の裏は見なくてはなりません】

 次に、この仮説は子音については何も触れていませんから、子音の裏は偶数でも奇数でもかまいません。したがって、

【子音のカード「K」の裏は確認する必要がありません】

 この2つは簡単にクリアできそうです。

 次に、偶数カード「4」の場合はどうでしょうか? 仮説の内容には「偶数」という言葉が出てくるので気になります。仮説には「母音なら裏は偶数」とあるので、母音の裏が偶数でないならば、それは仮説に反することになります。しかしこの仮説は、「偶数の裏は必ず母音だ」とは言っていません。偶数カード「4」をめくってみて、その裏が子音であっても、仮説に反することにはならないのです。したがって、

【偶数のカード「4」はめくる必要がありません】

 残りは「7」です。7は奇数ですが、「奇数」という言葉は仮説の文面に登場しません。「K」と同様、この問題に関係ないのでしょうか? ここで、「母音なら裏は偶数」という仮説の対偶をとってみましょう。

仮説:母音なら裏は偶数
対偶:偶数でないなら裏は母音ではない=奇数なら裏は子音

 つまり、「母音なら裏は偶数」という命題は「奇数なら裏は子音」と同じことなのです。そうなると、

【奇数のカード「7」は調べる必要があることになります】

 「7」の裏が母音だとしたら、仮説に反することになるからです。というわけで正解(裏返す必要があるカード)は「E」と「7」です。

 しかし、実際にこの「4枚カード問題」の実験を行ってみると、多くの人が「4」を裏返して確認します。というのは、偶数のカード「4」の裏が母音であれば「母音なら裏は偶数」という仮説が裏付けられる、と直感的に思ってしまうからです。

 「4」を裏返すことに合理性がないのは先に見たとおりですが、「仮説に反する証拠を探そうとする」よりも、

【仮説を支持する証拠、すなわち確証が得られるような証拠を探そうとする】

傾向が人間にはあるということです。言い換えれば、「人は自分が正しいと思っていることに対して、都合がよい情報ばかり集めようとする」のです。このような思考の偏りを確証バイアスと呼びます。

 例えば、「血液型がO型の人はおおらかである」と思っている人は、O型でおおらかな人を見つけては「やっぱりO型の人がおおらかだというのは正しい」と考えがちです。しかし、「おおらかでない人」を探せば、その人がO型である例はいくつもみつかるはずです。

 また、誰が見てもそうでないことは明らかなのに、「自分がダマされるはずがない」「自分の会社が倒産するはずがない」「奥さんと別れて自分と結婚するはず」と考えるのも、確証バイアスで自分に都合のよい情報だけを見ているからです。

 仕事を進める上でも、自分に賛同する人の意見だけを聞いてしまいがちですが、先ほどのカード問題で「7」に目をつけて裏返す態度と同じスタンスをとって、反対する人の意見もしっかりと聞くべきでしょう。こういったスタンスをとることによって、事象を偏りなく見渡すことができるようになるのです。

──『論理的思考 最高の教科書』では、このほかにも、論理的に考えるとはどういうことなのかを、基礎の基礎から、文と文をつなぐ接続詞、演繹と帰納の違い、そもそも論理的思考が必要なのかどうかを判断する方法まで、多数の例や練習問題を交えながら、わかりやすく解説している。

(了)


論理的思考 最高の教科書
福澤 一吉 著



福澤一吉(ふくざわ かずよし)
1950年生まれ。1982年ノースウエスタン大学コミュニケーション障害学部言語病理学科を卒業後、東京都老人総合研究所(現地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター)リハビリテーション医学部言語聴覚研究室研究員を経て、1998年より早稲田大学文学学術院心理学コース教授。言語病理学博士。専門は認知神経心理学。著書に『論理的に説明する技術』(サイエンス・アイ新書)のほか、『議論のレッスン』『クリティカル・リーディング』(NHK出版)、共訳に『議論の技法』(東京図書)など多数。
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