スキルアップ
2018年2月15日
優秀な人ほど注意! 効率を高めすぎると生産性は落ちる理由
『続ける脳』より
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 コツは簡単です。仕事にかける時間を、自分で決めればいいだけです。

 嫌な仕事ほど、やる気がでませんから、だらだら引き延ばしてしまいがちです。

 しかし「10分で終了させる!」と決めてしまえば、自分で決めた時間内に終えられるかどうかの「自分の問題」に置き換わります。面倒な仕事が、レベル設定したゲームに変わり、フロー状態に入れるのです。これが「タイムプレッシャー」の効能です。

 実際私は、面倒な仕事を頼まれたときは、この方法を使っています。

 自分にプレッシャーがかかるよう時間設定をするので、楽しいうえに、スピードも出て、仕事が早く片づく。一石二鳥というわけです。

 フローに入れない人は、負荷の調整ができていません。私たちは、「負荷は、外から与えられる」という考えに慣らされてしまっています。学校では先生にいわれるままに勉強し、会社では上司から仕事を割り振られる。「課題は自分で決めてよい」と気づけないのです。たしかに、仕事は他人から依頼されますが、それでも自分の仕事に翻訳できます。好きな仕事をやるためにも、面倒なルーティンを効率よくこなしましょう。

課題に意義があるかは関係ない


「ルーティンの仕事があるせいで、本当に自分のやりたいことができない!」

 時間がないのをルーティンワークのせいにして、いつもイライラしている。フローに入れず、ルーティンワークを楽しめない人は、こういうふうに考えていないでしょうか。

 チクセントミハイのフローの概念の中で大事なのは、「その課題に意義があるかは関係ない」ということです。

 意味がないように見える仕事も、フローに入れば楽しくなります。
私は、業界のトップランナーと対談しますが、どんなにめざましい活躍をしている人も、本質的な仕事にかける時間は、全体の2割あればよいという印象です。面白いデータを紹介しましょう。

 世界でもっとも優れた研究所の一つ、プリンストン高等研究所は、「天才たちに好きなことだけをやってもらう」という趣旨で設立されました。授業をする義務もないし、無駄な会議もない。すべての時間を自分の好きな研究に打ち込めるといって、天才たちを集めたのです。

 その結果、天才たちはどうなったか。

 多くの人の生産性が落ちてしまいました。つまり、邪魔だと感じる仕事の中にも本質的な仕事のヒントがあるのです。

 邪魔な仕事からもヒントを見つけるには、その仕事に打ち込んでいる必要があります。たとえば、演劇をやりたいけれど、生計を立てるために、ファーストフード店でアルバイトをしている人がいるとします。

 こんなとき、ファーストフード店の仕事を、「バイトのせいで本業に打ち込めない」「演劇がうまくなるチャンスが失われている」と考えてしまう人は多いものです。演劇こそが本当の仕事と思い、ファーストフードの仕事をいい加減にこなしてしまう。しかしそんな姿勢では、仕事から大事なヒントを得るのは難しいでしょう。

 接客の仕事が、役づくりに役立つときがくるかもしれません。あるいは、バイト仲間との関係を通して、人の気持ちがわかるかもしれない。

 なにより、人生の8割の仕事の時間が、苦痛な時間からかけがえのない時間に変わります。仕事が意味のあるものになるかならないかは、自分の姿勢の問題なのです。

(了)


続ける脳
最新科学でわかった!必ず結果を出す方法
茂木 健一郎 著



茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年10月20日東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。専門は脳科学、認知科学。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。2005年「脳と仮想」で、第四回小林秀雄賞を受賞。2009年、「今、ここからすべての場所へ」で第12回桑原武夫学芸賞を受賞。著書に、『脳とクオリア』(日経サイエンス社)、『生きて死ぬ私』(徳間書店)、『意識とはなにか──<私>を生成する脳』(ちくま新書)、『脳と創造性』(PHP研究所)、『ひらめき脳』(新潮社)、『結果を出せる人になる!「すぐやる脳」の つくり方』(学研プラス)、『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)など多数。
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