ビジネス
2018年10月19日
実は知らないことばかり。サウジアラビアの政治事情
『学校では教えてくれない世界の政治』より
諸外国から批判を受ける女性の人権問題
サウジアラビアの国内法は、イスラム教スンニ派の原理主義(ワッハービズム)に基づいてつくられており、男女の区別が特徴的です。
例えば、女性の服装には厳格な決まりがあり、外出時には必ずヒジャーブという、頭と体を覆う布を身につけなければなりません。また、女性は家族以外の男性との接触が禁じられ、女性が旅行したり、働いたり、医療サービスを受ける際には、男性の保護者の付き添いや、書面での許可が必要となります。サウジアラビアの女性は、日常生活を行ううえでさまざまな規制を受けていることは事実でしょう。
さらに、サウジアラビアでは、女性が自動車を運転することも禁じられていました。女性は運転免許証の交付を受けられず、もし運転しているところを見つかれば、逮捕される可能性すらありました。このため多くの家庭では、女性の送り迎えのため、民間の運転手を雇っていました。
しかし、2017年にサルマン国王が女性に自動車の運転を許可する勅令を出したことで、2018年6月24日、サウジアラビアで初めて、女性の運転が解禁され、多くの女性が免許の交付を受けました。男女平等の実現という世界的な流れを受けて、サウジアラビアも変化しつつあります。
このような女性に対する制約は、政治面にも表れています。例えば、日本の地方自治体にあたる「自治評議会」の選挙について、2015年12月までは、女性に選挙権と被選挙権が与えられていませんでした。
この点についても諸外国から批判されていたところ、2015年12月の選挙において、初めて女性の政治参加が実現します。この選挙では、女性に「立候補」する権利も認められ、この選挙において初めて、サウジアラビアの女性議員が誕生します。先ほど、この選挙の投票率は47%といいましたが、女性に限ると投票率は80%を超えました。
なお、国政に関与する「諮問評議会」の議員は、国王より任命されますが、この議員も従来は男性のみに限られていました。しかし、2013年に初めて、30人の女性議員が国王により任命され、現在に至っています。
●ちょっと雑談
サウジアラビアには、政党が存在しません。立法権が国王に属しているため、政治的な団体を結成することもない...ともいえますが、それ以前に、そもそも政治的結社(結社とは団体のことと考えればよいでしょう)をつくることが禁止されています。
「サウード家によるアラブの王国」という国の名
そもそも、「サウジアラビア王国」という国の正式名称は、「サウード家によるアラブの王国」という意味を持ちます。要するに、サウジアラビアは「サウード家」という王族が統治する王政国家なのです。
1700年代半ば、サウード家はアラビア半島中央部にあるナジュド地方の小さな町を治める豪族でした。当時、この地方ではムハンマド・イブン・アブド・アル・ワッハーブによって新しいイスラム宗教運動(この運動はワッハーブ派と呼ばれる)が始められます。このワッハーブ派とサウード家の協力関係がつくられたことで、サウード家は勢力を拡大していきます。
その後、サウード家は滅亡と再建を繰り返しながらも、長い時間をかけて支配領域を拡大し、中東における一大王国へと発展しました。そして、1932 年に国名を「サウジアラビア王国」と変え、現在に至っています。
サウジアラビアはその国名が示すように、サウード家出身者が統治する王国であり、それゆえ絶対君主制という政治体制が現在でも残っているのです。
──いかがでしたでしょうか。サウジアラビアの政治事情について基本的なところが少しでもわかると、世間を賑わしているニュースの見方が、また違ってくるのではないでしょうか。『学校では教えてくれない世界の政治』では、このほかにも、世界の動きを知るうえで重要といえる国や、日本と関わりが深い国を題材にしながら、政治に関する一般教養と知的雑学がまとめまられています。新聞やテレビで報道されているニュースをより深く、より面白く読み取れるようになりたい人は、チェックしてみるとよいでしょう。
(了)