スキルアップ
2014年5月29日
なぜ人はゲームにハマるのか【前編】モチベーション
[連載] なぜ人はゲームにハマるのか【1】
文・渡辺 修司/中村 彰憲
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マクレランドの欲求理論


 時代が下ると、モチベーションに対する研究はさらに深まっていきます。

 そのひとつが、ジェームズ・マクレランドによる研究です。マクレランドはまず、人が抱く欲求を分類します。

●達成欲求:一定の目標に対して、達成し成功しようと努力する欲求
●権力欲求:他者に対して影響力を与え、コントロールしたいという欲求
●親和欲求:友好的で親密な対人関係を結びたいという欲求
●回避欲求:失敗や困難な状況を回避したいという欲求

 そして、これらの欲求がモチベーションに対してどの程度影響を与えるかは、個人や、個人を取り巻く文化的背景によって異なると提唱しました(『モチベーション―「達成・パワー・親和・回避」動機の理論と実際』<生産性出版>)。

 ソーシャルメディアにおける「いいね」ボタンは、親和欲求を満たす仕組みの好例です。MMORPGのような社会性を持つゲームでは、権力欲求がプレイヤーの動機付けに対して一定の影響を持つでしょう。キャラクターのレベルが高いほど、ゲーム内で高い社会的影響力を及ぼすことができるからです。

マズローの欲求階層


図●マズローの欲求階層 ※クリックすると拡大

 アブラハム・マズローは「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生き物である」と仮定しました。そして人間の欲求を低次から高次に向けて、5段階に分類しました(図参照)。「生理的欲求」「安全と安定の欲求」「集団への所属欲求」「自尊心の欲求」「自己実現の欲求」です。これをマズローの欲求階層と言います(『人間性の心理学』<産能大出版>)。

 このモデルの特徴は、下位の欲求が満たされると、より上位の欲求を求める気持ちが高まるという点です。一方で、現状の欲求が満たされない限り、上位の欲求はあまり意味を持ちません。たとえば、餓死寸前という生理的欲求が満たされない状態では、自尊心や自己実現に対する欲求はほとんど意味を持たないということです。

 この理論は、MMORPG内でのプレイヤーの行動を示すモデルとして、しばしば引用されます。ゲームを始めたばかりの初心者プレイヤーは、まだゲーム内で適切な行動をとることができず、ちょっとしたことで死んでしまいます。

 そのため最初の目的は生き残ること(生理的欲求)であり、次が安定してゲームを継続できるようになること(安全と安定の欲求)です。

 ある程度ゲームに慣れてくると、フレンドを作ったり、ギルドに加入したりするプレイヤーが増えてきます(集団への所属欲求)。さらに、十分に経験を積んだプレイヤーの中には、ギルドのリーダーになる者もいるでしょう(自尊心の欲求)。また、新しいアイテムやマップを作って配布する、などの行為まで行うプレイヤーも出てきます(自己実現の欲求)。

 そこで、ゲームの中にこれらの要素を意識的に組み込んでいけば、商品寿命をより延ばすことができると考えられます。また、多くのゲームは現実社会よりも簡単にこれらの欲求を満たすことができるため、人は夢中になるとも考えられます。実際に多くのMMORPGは、実社会よりもはるかに早く成長でき、達成感や優越感を感じやすいようなゲームデザインになっています。

 また、ゲーム内でアイテムを自作したり、加工したアイテムを共有したりする機能も多くのゲームで見受けられます。これらによって、プレイヤーは自己実現欲求を満たすことができます。

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 ここまでに見てきた研究はいずれも、人が「夢中になって」ゲームをプレイする理由の一面を説明しています。しかし、「継続的に」プレイする点については説明不足と言えるでしょう。次回は、この点について解説していきます。

(『なぜ人はゲームにハマるのか』より)
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なぜ人はゲームにハマるのか
開発現場から得た「ゲーム性」の本質
渡辺 修司、中村 彰憲 著



【著者】渡辺 修司(わたなべ しゅうじ)
2007年より大学の教鞭をとり、2010年度より正式に立命館大学映像学部准教授に専任。現職 日本デジタルゲーム学会研究委員、立命館大学ゲーム研究センター運営委員。1997 年 「FinalFantasy7 international」(株式会社スクウェア) でゲーム業界に参加後、多数の会社で企画・監督職として参加。代表作は、2008年「internet Adventure」(株式会社セガ) 原案・企画監修。2004年 エンターブレイン主催 第1回ゲーム甲子園 大賞受賞 「みんなの城」個人作品、2003年 メディア芸術祭審査員推薦作品 「ガラクタ名作劇場 ラクガキ王国」(株式会社タイトー 2003年)、原案・監督職

【著者】中村彰憲(なかむら あきのり)
立命館大学映像学部教授、日本デジタルゲーム学会副会長、立命館ゲーム研究センター運営委員。名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程後期修了後、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、立命館大学政策科学部助教授を経て現職。東京ゲームショウアジアビジネスフォーラムアドバイザー(2010ー2011)、太秦戦国祭り実行委員会委員長(2009-2012)などを歴任。主な著書に、「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ、アジア市場を担当)、「ファミコンとその時代」(NTT出版、上村雅之氏、細井浩一氏と共著)、「テンセント VS. Facebook」、「グローバルゲームビジネス徹底研究」、「中国ゲームビジネス徹底研究」シリーズ(全てエンターブレイン)など多数。「ファミ通ゲーム白書」においては創刊以来、一貫して中国及び新興市場を担当する。最近は、GPS機能を活用したゲーム的アプリ開発のプロジェクトにも参画し、GDC2012でも講演。博士(学術)。