スキルアップ
2014年6月9日
なぜ人はゲームにハマるのか【後編】フロー理論
[連載]
なぜ人はゲームにハマるのか【2】
文・渡辺 修司/中村 彰憲
前回は、人が「夢中になって」ゲームをプレイする理由として、モチベーションに関する研究を紹介しました。後編では、ゲームを「継続的に」プレイする研究である「フロー理論」について解説します。
フロー理論──没入感を感じているときの状況
近年「継続性」に焦点を当てた研究が注目を集めています。ミハイ・チクセントミハイのフロー理論です(『楽しむということ』<思索社>)。
「フロー」とはゲームに限らず、映画やジョギング、登山、勉強、作業など、人が何かに没入感を感じているときの状況を指しています。チクセントミハイは人がフローを体験する条件として、行為に対する機会(難易度)と、行為に必要な能力(スキルの高さ)という2つの条件を挙げました。そして、両者のバランスがうまくとれているときに、フロー体験が得られると考察しました(図参照)。また、スキルが低く難易度が高いときは不安や心配(本当に自分に達成できるのだろうか、失敗しないだろうか)を感じ、その逆の場合は退屈感や別の不安(もっと別のことをしたい、こんなことをしていて良いのだろうか)を感じると考察しました。
チクセントミハイはまた、フローを体験するうえで必要な3つの条件があると指摘しています。
●明確な目標の存在
●認識される挑戦の度合いと、自身が持ちうるスキルに対する理解のバランス
●即時性のあるフィードバックを得られるという事実
このように、フロー理論は、多くのゲーム開発者が「ゲームバランス」と呼んでいるものと重なる要素を多く含んでいます。
ゲームの特徴のひとつに、プレイヤーが能動的に参加するメディアだという点があります。裏を返すと、人を夢中にさせ、継続的にプレイしてもらうためには、人を能動的な気持ちにさせ続ける必要があるということです。一方で、人には、できるだけ楽をしたい、面倒なことはしたくないという本能的な欲求もあります。これは、全てのゲームデザイナーが日々、直面しているジレンマです。どのようにしたら、このバランスをうまくとることができるのでしょうか。フロー理論は、その問いに答えるためのヒントを提供しています。
なお、チクセントミハイは、その後の研究でフロー理論をさらに進化させています。まず、スキルレベルと難易度レベルのマトリックス化を行い、体験者の心理的状態を8項目に分類しました(『Finding Flow: The Psychology of Engagement With Everyday Life』<BasicBooks>)。そのうえで、スキルレベルが高く、難易度が低いときに、プレイヤーは退屈ではなく安心感を覚える場合もあると分析しています。癒しを求めて難度の低いゲームを遊ぶなどは、その好例でしょう。
【著者】渡辺 修司(わたなべ しゅうじ)
2007年より大学の教鞭をとり、2010年度より正式に立命館大学映像学部准教授に専任。現職 日本デジタルゲーム学会研究委員、立命館大学ゲーム研究センター運営委員。1997 年 「FinalFantasy7 international」(株式会社スクウェア) でゲーム業界に参加後、多数の会社で企画・監督職として参加。代表作は、2008年「internet Adventure」(株式会社セガ) 原案・企画監修。2004年 エンターブレイン主催 第1回ゲーム甲子園 大賞受賞 「みんなの城」個人作品、2003年 メディア芸術祭審査員推薦作品 「ガラクタ名作劇場 ラクガキ王国」(株式会社タイトー 2003年)、原案・監督職
【著者】中村彰憲(なかむら あきのり)
立命館大学映像学部教授、日本デジタルゲーム学会副会長、立命館ゲーム研究センター運営委員。名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程後期修了後、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、立命館大学政策科学部助教授を経て現職。東京ゲームショウアジアビジネスフォーラムアドバイザー(2010ー2011)、太秦戦国祭り実行委員会委員長(2009-2012)などを歴任。主な著書に、「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ、アジア市場を担当)、「ファミコンとその時代」(NTT出版、上村雅之氏、細井浩一氏と共著)、「テンセント VS. Facebook」、「グローバルゲームビジネス徹底研究」、「中国ゲームビジネス徹底研究」シリーズ(全てエンターブレイン)など多数。「ファミ通ゲーム白書」においては創刊以来、一貫して中国及び新興市場を担当する。最近は、GPS機能を活用したゲーム的アプリ開発のプロジェクトにも参画し、GDC2012でも講演。博士(学術)。
2007年より大学の教鞭をとり、2010年度より正式に立命館大学映像学部准教授に専任。現職 日本デジタルゲーム学会研究委員、立命館大学ゲーム研究センター運営委員。1997 年 「FinalFantasy7 international」(株式会社スクウェア) でゲーム業界に参加後、多数の会社で企画・監督職として参加。代表作は、2008年「internet Adventure」(株式会社セガ) 原案・企画監修。2004年 エンターブレイン主催 第1回ゲーム甲子園 大賞受賞 「みんなの城」個人作品、2003年 メディア芸術祭審査員推薦作品 「ガラクタ名作劇場 ラクガキ王国」(株式会社タイトー 2003年)、原案・監督職
【著者】中村彰憲(なかむら あきのり)
立命館大学映像学部教授、日本デジタルゲーム学会副会長、立命館ゲーム研究センター運営委員。名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程後期修了後、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、立命館大学政策科学部助教授を経て現職。東京ゲームショウアジアビジネスフォーラムアドバイザー(2010ー2011)、太秦戦国祭り実行委員会委員長(2009-2012)などを歴任。主な著書に、「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ、アジア市場を担当)、「ファミコンとその時代」(NTT出版、上村雅之氏、細井浩一氏と共著)、「テンセント VS. Facebook」、「グローバルゲームビジネス徹底研究」、「中国ゲームビジネス徹底研究」シリーズ(全てエンターブレイン)など多数。「ファミ通ゲーム白書」においては創刊以来、一貫して中国及び新興市場を担当する。最近は、GPS機能を活用したゲーム的アプリ開発のプロジェクトにも参画し、GDC2012でも講演。博士(学術)。