カルチャー
2014年9月25日
「サラリーマン大家は楽して儲かる」を疑ってみよう
[連載] 不動産を買うなら五輪の後にしなさい【5】
文・萩原 岳
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楽して儲けたい素人にうまく売りつける構造


 大きな書店に足を運ぶと、不動産投資本コーナーがありますが、そこに置かれているうちの何冊かは、「楽して儲かる」や「素人でも成功する」といった扇情的なタイトルがつけられています。しかし、果たして本当に誰でも簡単に楽して儲けられることができるのでしょうか? その答えは、不動産業界では常識ともいうべき、「個人の不動産投資に関して一番楽して儲かるのは、楽して儲けたい素人に商品を売りつけることだ」という言葉が全てを物語っています。

 一般の方が不動産投資をすること自体は悪くありません。何も知らない状態で大金を投じ、人生をかけるような投資をすることが危険なのです。まずは不動産のことを勉強する必要があります。

 例えば、「利回り」という用語ひとつとっても、正しく理解をされているとは言いがたいのが現状です。「利回り30%投資法」などの高利回り投資法が数多く出版されていることを鑑みると、どうやら世間一般では「利回りは高ければ高い方がいい」という風潮があるようです。しかし、利回りとは収益性を計る尺度であると同時に、リスクを計る尺度であるということを理解しないといけません。

 不動産には価格があり、賃料があります。価格が元本なら、賃料は元本から生じる果実だと言えます。利回りとは、価格と賃料の割合を示す指標ですが、価格もしくは賃料の一方が変動すれば利回りも変動します。

元本:1億円に対して果実:1千万円 → 利回り:10%(1千万円 ÷ 1億円)
元本:2億円に対して果実:1千万円 → 利回り:5%(1千万円 ÷ 2億円)
元本:1億円に対して果実:5百万円 → 利回り:5%(5百万円 ÷ 1億円)

 では、次に賃料が一定とした場合を考えます。

果実:1千万円に対して利回り:5% → 元本:2億円 (1千万円 ÷ 5%)
果実:1千万円に対して利回り:10% → 元本:1億円 (1千万円 ÷ 10%)
果実:1千万円に対して利回り:20% → 元本:5千万円 (1千万円 ÷ 20%)

 そうすると、利回りが変動するにつれて今度は価格が変動します。通常、賃貸用不動産を購入する場合、賃料はあらかじめ決まっていて、価格は交渉次第のはずです。そこで、投資家は自分なりの利回り基準に従って賃料と利回りから購入希望価格を計算します。つまり、利回りとは投資の意思決定基準となる指標だと言えます。

 利回りを算定する方法はいくつかあるのですが、代表的な手法として10年物国債の利率に対象不動産のリスクプレミアを加味して計算する方法があるのですが、このリスクプレミアこそ、利回りの本質だと言えます。

 つまり、最も堅実と言われる国債と比べて、不動産投資そのもののリスク、対象不動産が属する地域のリスク、対象不動産の個別性に由来するリスクなどを加味して、「国債よりもこれだけ利回りが高いならリスクをとって投資してもいい」水準を計算するのです。仮に国債と同じ利回りならば、あえてリスクを冒してまで不動産に投資しなくても国債を買えばいい、という理屈です。

 このことから、「利回りが高い」物件は、「利回りを高くしなければ買い手がつかない」物件、すなわちリスクの高い物件だと読み替えることができます。

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不動産を買うなら五輪の後にしなさい
不動産鑑定士がこっそり教える売買のコツ
萩原 岳 著



萩原 岳(はぎわら がく)
千葉県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。株式会社アプレ不動産鑑定 代表取締役。不動産鑑定士。在学中より不動産鑑定業界に携わり、2007年不動産鑑定士論文試験合格、2010年不動産鑑定士として登録する。数社の不動産鑑定士事務所勤務を経て、2014年株式会社アプレ不動産鑑定を設立し、現職。相続税申告時の不動産評価など税務鑑定を専門とし、適正な評価額の実現を掲げ、相続人と共に「戦う不動産鑑定士」として活動する。また、実務で培った経験をもとに、「相続と不動産」について税理士、弁護士、不動産鑑定士など相続の実務家を相手とした講演活動も行っている。