カルチャー
2014年9月11日
史上最低金利だからこそ気をつけたい「住宅ローンの罠」
[連載]
不動産を買うなら五輪の後にしなさい【3】
文・萩原 岳
歴史的な低金利のうちに不動産を買いましょうの落とし穴
住宅金融支援機構が提供する住宅ローン「フラット35」が今年、史上最低金利を更新したなど、住宅ローンが史上最低水準にあることが話題になっています。
実際に9月時点、住宅ローン金利は史上最低水準に。10年固定型(最優遇金利)において三菱東京UFJやみずほ銀行などメガバンクが金利を1.2%に、三井住友信託銀行は1.0%に設定しているほか、ソニー銀行などネット銀行では、変動金利ではありますが、0.6%を下回る水準で貸し出しています。なぜこうまで低金利になっているか、ローン金利の指標となる10年物国債の金利が0.5%前後という低水準で推移していることはもちろんですが、金融機関が低金利競争を展開せざるを得ない状況に追い込まれているためです。
まず、貸出先がないことが挙げられます。優良企業は潤沢な内部留保を蓄えているため資金需要に乏しい一方、需要が旺盛な新興企業に対しては債権処理に苦しんだ経験から融資に及び腰になっています。そこで、担保が取りやすく、低リスクで一定の利ザヤが見込める住宅ローンの貸出を増やそうというわけです。考えることはどこも同じであるため、限られたパイに金融機関が殺到した結果、低金利競争という消耗戦を招いているのです。
マイホームを購入する際、住宅ローンを利用することに疑問を抱く人はいないでしょうし、低金利であるほど借り手に有利だと思いがちですが、実は「低金利にはワナがある」ことを忘れてはいけません。
すなわち「歴史的な低金利だから今のうちにお金を借りて不動産を買いましょう」という不動産業者のセールストークがありますが、注意が必要です。一見すると合理的な判断に思えるのですが、金利には名目金利と実質金利の2種類あるという事実を知らないと損をしてしまうかもしれません。
名目金利と実質金利の違いについてまず理解しておくべき
名目金利とは、物価上昇率などを加味しない金利のことを言い、世間一般で耳にする金利は大抵この名目金利のことを指しています。例えば、10年物国債利回り1%や、30年固定住宅ローン貸出金利2%は名目金利です。一方、実質金利とは名目金利から物価上昇率を引いた金利のことです。例えば、国債利回り(名目金利)が3%、物価上昇率が2%だとすると、実質金利は3%-2%=1%と計算されます。そして、マイホーム購入などの経済活動において重要なのは、名目金利ではなく実質金利の方なのです。というのも、現金の価値が同じであったとしても、物価が上昇すれば、その分相対的に現金の価値が下がるからです。
・実質金利 = 名目金利 - 物価上昇率
同じ名目金利3%であっても、物価上昇率が違えば実質金利は異なります。ましてや、物価上昇率のベクトルが逆、すなわちマイナスになっていた場合はいわずもがなです。
例えば、名目金利3%、物価上昇率2%の場合、実質金利は3%-2%=1%です。これが、名目金利1%、物価上昇率-2%だとすると、実質金利は1%-(-2%)=3%となり、名目金利3%より名目金利1%の方が、実質金利が高くなる事態が生じます。そして、この物価上昇率がマイナスの状態こそ、日本でもここ10数年来続いてきたデフレなのです。
1)名目金利3%、物価上昇率2%のケース
名目金利 3% - 物価上昇率 2% = 実質金利 1%
2)名目金利が前者より低くても、物価上昇率がマイナスだと......
名目金利 1% - 物価上昇率 -2% = 実質金利 3%
萩原 岳(はぎわら がく)
千葉県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。株式会社アプレ不動産鑑定 代表取締役。不動産鑑定士。在学中より不動産鑑定業界に携わり、2007年不動産鑑定士論文試験合格、2010年不動産鑑定士として登録する。数社の不動産鑑定士事務所勤務を経て、2014年株式会社アプレ不動産鑑定を設立し、現職。相続税申告時の不動産評価など税務鑑定を専門とし、適正な評価額の実現を掲げ、相続人と共に「戦う不動産鑑定士」として活動する。また、実務で培った経験をもとに、「相続と不動産」について税理士、弁護士、不動産鑑定士など相続の実務家を相手とした講演活動も行っている。
千葉県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。株式会社アプレ不動産鑑定 代表取締役。不動産鑑定士。在学中より不動産鑑定業界に携わり、2007年不動産鑑定士論文試験合格、2010年不動産鑑定士として登録する。数社の不動産鑑定士事務所勤務を経て、2014年株式会社アプレ不動産鑑定を設立し、現職。相続税申告時の不動産評価など税務鑑定を専門とし、適正な評価額の実現を掲げ、相続人と共に「戦う不動産鑑定士」として活動する。また、実務で培った経験をもとに、「相続と不動産」について税理士、弁護士、不動産鑑定士など相続の実務家を相手とした講演活動も行っている。