カルチャー
2014年9月26日
泥沼の「イスラーム国」をUAE人はどう思っているのか?
[連載] 住んでみた、わかった! イスラーム世界【特別編】
文・松原直美
  • はてなブックマークに追加

アメリカ人ジャーナリストの殺害、非イスラーム教徒への迫害など、残虐行為を続けているイスラーム国について、アラブ諸国の商業や観光業を牽引するアラブ首長国連邦(UAE)の人々はどう思っているのでしょうか? 『住んでみた、わかった! イスラーム世界』の著者・松原直美が、実際にUAEの諸都市に住む人に聞いてみました。


イスラーム国を決して支持しない


 UAE国防軍は9月22日にアメリカ軍、他のアラブ諸国4ヶ国とともにイスラーム国が支配する地域への空爆を開始しました。UAEで発行されているいくつかの英字新聞を見ても記事は総じてイスラーム国を批判し倒すべき対象としています。

 UAE人は8割以上がスンナ派の教徒であり、その多くはイスラームの教えを生活の中で堅守しています。これらの人々はスンナ派の過激派が形成するイスラーム国についてどのような意見を持つかを、UAEの諸都市に住む20~30代のUAE人数十人に意見を聞いてみました。この中で、代表的な意見を4つご紹介します。

 ドバイ首長国に住む25歳の女性ウンム・ハムダンさん(ハムダンのお母さん)は、「UAE人は一般に政治的なことをあまり話題にしないけれど」と前置きをしながらも、憤慨した口調で話しはじめました。「イスラーム国の人たちがやっているのは100%政治的なこと。イスラーム教とは何の関係もない」。こう断言する2児の母が強調したのは「イスラームという言葉にはいくつかの意味があるが、"平和"という意味もある」ということです。「イスラーム教徒の聖典クルアーンには、「イスラーム教徒は寛容であるように」と神がなんども民衆を諭したことが明記されている。私たちは平和を愛する者。イスラーム国がやっていることはまったく意味をなさない」。

 ウンム・ハムダンさんと同じように怒りをあらわにしたのはシャルジャ首長国に住む31歳の男性公務員ハムーディ氏。シャルジャはUAEの中でイスラームの戒律を人々の生活に一番厳しく課している首長国のため敬虔なイスラーム教徒が多く住んでいます。「イスラーム国の人々はイスラーム教徒ではない。イスラームという名前を勝手に利用して、自分たちのしたい放題に振る舞う狂気の集団」とばっさり言い切ります。「洗脳されている彼らのすることは、自分の気に入らない人たちをただ殺すだけ。イスラーム教徒同士は、たいてい相手のことを自分の兄弟や姉妹と呼び合うが、あの原理主義たちのことを兄弟と呼ぶことは絶対にできない」。

イスラーム国への関心が低い若者も


 一方、イスラーム国についてあまり真剣に考えたことがない人たちもいました。アブダビ首長国で公務員として働く26歳の男性スワイディ氏は「イスラーム国についてどう思うか?」という私の質問がよく理解できず、イスラーム教を国教としている国全般についての質問だと勘違いしてしまいました。

 私が「最近イラクやシリア周辺で独立を宣言した国」のことですよ」と補足をすると、スワイディ氏はようやく理解し、こう答えました。「彼らは自分たちをジハーディスト、つまりイスラームのために闘うという神聖な目的を持った戦士とみなしているが、それは間違っている。ジハードとは神を喜ばせるために努力すること。彼らがやっていることは神を喜ばせない」と答えました。

しかし、欧米メディアの報道姿勢には懐疑的


 地方の小都市に住む22歳の女子学生サタールさんは私の質問に対し、「政治的なことはあまり口にしたくない」と開口一番に述べました。しかしためらいながらも「過激な思想を持つ彼らは私たちとは違う」という考えを告げてくれました。

 ウンム・ハムダンさんが言ったようにUAE人、特に女性は国内外の政治問題を話題としてあまり取り上げません。その理由は、多くの国民が「政治は首長家の人々がするもの」と考え、自分とはほとんど関係がないと思っていることに起因するようです。UAEでは建国者の血筋の人々、つまり首長家のメンバーが世襲制で政治を司る役職に就きます。国民の尊敬を集める現今の首長や首長を支える面々が石油や天然ガスから得られる富などを国民に配分しながら安定的に政治を行っているため、国家を揺るがすような不満を表明する動きはありません。

 このように普段から政治に深く関与することのないUAE人たちには、イスラーム国の事件が勃発したからといって、突然、国際政治に興味を持つようになることもないのでしょう。

 「イスラーム国について、家族や友達と話題にすることはある?」と聞くと、多くの人が「ほとんどない」と答えました。

 現在、ヨーロッパ諸国やアメリカなどからイスラーム国の趣旨に賛同してイラクやシリアに赴く若者が続出していますが、彼らの多くはアラブ系かアジア系。この現象を調査している学者は「参戦に走る若者にはイスラーム教国からの移民の二世、三世が多い。彼らは非イスラーム教徒の白人が伝統的に支配してきた移民先の社会に対し疎外感を募らせ、急進的な思想に染まっていく」との見解を示しています。また「現状に不満を持つ若者が不満のはけ口として戦争に駆り立てられている」との見方もあります。

 UAE人はUAE社会で疎外感を感じることもなく、現状にとりたてて不満も持っていないので、イスラーム国の戦闘部隊として加わることは通常考えられません。

 イスラーム国を非難する意見に加えて、多くのUAE人に共通してみられた意見は「イスラーム国を支持することは決してない。しかし、欧米のメディアが報道していることを鵜呑みにしたくはない」というものでした。「ある事件をどう取り上げるかは、記事を書く人の主観によって変わってくる。だから、どんな場合でも、報道を客観的に判断できるようにしたい」。

 「欧米のメディアはイスラームの教えを深く理解しようともせず、"男性が女性を抑圧している"などと否定的な報道をすることが多い」。UAE人はよくこのように不平を漏らし、メディアに対して長年にわたって累積している不信感をあらわにします。彼らは今回の一連の事件で、国際社会においてただでさえ良くないイスラーム教徒のイメージがさらに悪くなることを懸念すると同時に、メディアのあり方にも冷ややかな目を向けていました。

(了)
  • はてなブックマークに追加





住んでみた、わかった! イスラーム世界
目からウロコのドバイ暮らし6年間
松原直美 著



【著者】松原 直美(まつばら なおみ)
1968年東京生まれ。上智大学経済学部卒業。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際関係学専攻博士後期課程退学。タイの公立高校日本語講師を経て、ドバイへ2006年に移動。UAE国立ザーイド大学にて日本語指導と空手道の初代講師として、2007年~2012年まで勤務。UAEでは茶道の振興にも携わった。現在はロンドン在住だが、UAEと日本の架け橋となるべく活動を続けている。著書に『住んでみた、わかった! イスラーム世界』がある。 ブログ「ドバイ千夜一夜」(http://blogs.yahoo.co.jp/dubai1428)は、2007年から連載をはじめ、もう少しで1000回を数える。