カルチャー
2014年3月13日
ドバイの「世界一」を支える日本の技術。でも謙虚だと伝わらない!
[連載] 住んでみた、わかった! イスラーム世界【2】
文・松原直美
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世界一が好きなドバイで活躍する日本の先端技術


 ドバイには「世界一」の建造物や娯楽施設がたくさんありますが、「世界一」を支えているのも、多くが日本の技術です。たとえば2010年初にオープンした世界一高いビル「ブルジュ・ハリーファ」の空調、衛生、電気などの設備です。地上から展望台まで人を運ぶ世界最速のエレベーターも日本製です。

 世界最大級の売り場面積を誇るショッピングモール「ドバイモール」には世界の珍しい魚を集めた水族館があります。水族館内の世界最大の水槽アクリルパネルは日本製です。パネルは厚いと水槽の中が歪んで見えますが、ドバイモール水族館のパネルにはその欠点がありません。水槽の中を見ているとまるで自分が海底にいるような気分になれるため、水槽の前にはいつも人だかりができています。

 「ドバイモール」には大きな人工池が隣接しています。この池の噴水の規模は世界最大で、一日に数回ある「水のダンスショー」では150メートルの高さまで水を噴き上げますが、この水は日本の技術で浄化されたものです。雨がほとんど降らず、川がないドバイでは水がたいへん貴重です。世界一の噴水のみならず、飲み水の多くは海水を淡水化したものですが、この浄水過程にも日本企業の技術が貢献しています。

 2009年半ばにオープンした市内を走るドバイ・メトロという電車は、世界一長い全自動無人運転システムを搭載していますが、この建設には日本企業が大きくかかわっています。車体も日本製で、自動改札も日本の技術だそうです。

 世界最高額の賞金で知られるドバイ競馬ワールドカップの会場となる「メイダン競馬場」の巨大スクリーンは107メートルで世界最長ですが、このモニターは日本製です。迫力のある画像は馬の駆る細かい土のほこりまでくっきりと映し出します。

「謙虚すぎる」とスゴさをわかってもらえない!


 このように「日本の技術はドバイを世界一たらしめている」のですが、残念なことに日本車や、日本のテレビ、コンピュータなど身近な家庭用電気製品以外、その技術のすばらしさは一般の人々にあまり知られていません。

 たとえば世界最大の噴水が日本の技術で浄化された水を使っているということ、世界一高層ビルの空調が日本企業によって設置されたことをUAE人を含む在住者数十人の成人男女に聞いてみましたが、知っていたのは一人だけ。

 一方、このビルを建てたのが韓国企業、ガラスが中国製、というのは割合良く知られています。

 ドバイモール水族館にある世界最大の水槽アクリルパネルや、海水の淡水化装置、ドバイ・メトロについても結果はほとんど同じでした。

 ドバイに住んでいた筆者自身も、ドバイで使われている日本の技術について調査するまでほとんど日本企業の実績を知らなかったので、外国人がそれを知らないのは当然かもしれません。

 才能や業績を誇らない「謙虚さ」は日本人の美徳で、謙虚なゆえに日本人が外国人から好かれることも多いですが、「謙虚すぎる」と誰にもわかってもらえないようです。

韓国勢の売り込みにかすむ日本の電気製品


 海外市場で進出が目覚しい韓国製品は、企業と国家機関が協力してドバイで華やかな宣伝活動を展開しています。そのせいかドバイの電気製品量販店の店頭では日本製品より韓国製品の方が目立ちます。いくつかのお店で店員にたずねたところ「液晶テレビは、日本製品より画面がきれいな韓国製品の方が売れている」という返答がありました。

 韓国は若者を韓国ファンにする努力も怠りません。たとえば大学で韓国フェアを開催して、韓国製自動車や物産を展示したり、理系の学生に技術講習会を開いて、韓国メーカーの知名度を売り込んでいます。

 日本の企業は私益のためだけでなく公益のためにも重要な仕事をしているのですから、日本企業と日本国政府は大いにその業績を誇示してもよいはずです。

 その上で、「日本人はイスラーム教徒が身につけるべき美徳を体現しているので、アラブ人は日本人を尊敬している」という利点を生かせれば、日本企業がアラブ諸国で有利に事業を展開できる可能性が見えてくるのではないでしょうか。

(第2回・了)





住んでみた、わかった! イスラーム世界
目からウロコのドバイ暮らし6年間
松原直美 著



【著者】松原 直美(まつばら なおみ)
1968年東京生まれ。上智大学経済学部卒業。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際関係学専攻博士後期課程退学。タイの公立高校日本語講師を経て、ドバイへ2006年に移動。UAE国立ザーイド大学にて日本語指導と空手道の初代講師として、2007年~2012年まで勤務。UAEでは茶道の振興にも携わった。現在はロンドン在住だが、UAEと日本の架け橋となるべく活動を続けている。著書に『住んでみた、わかった! イスラーム世界』がある。 ブログ「ドバイ千夜一夜」(http://blogs.yahoo.co.jp/dubai1428)は、2007年から連載をはじめ、もう少しで1000回を数える。
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