ビジネス
2014年3月28日
AKB48大島優子の言葉に学ぶ「転機」への心得
文・松山 淳
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春は別れと新たな出会いの季節です。卒業、異動、転職など、年齢に関係なく多くの人たちが、慣れ親しんだ環境を離れる「転機」(トランジション)を迎えます。新たな旅立ちは、希望もありますが不安も大きいものです。国民的なアイドルグループAKB48の大島優子が卒業します。これまでの彼女の言葉を指針に、キャリア論の観点を織り交ぜ「転機」への心得について考えます。


「人生の扉」は、自分で開閉する(ブリッジズのキャリア理論)


 昨年12/31の紅白歌合戦で大島優子は、AKB48からの卒業を発表しました。その前日(12/30)、彼女はブログにこう記していました。

 「明日で今年が終わる 新年が来て 生まれ変わる
  その心の準備を... 2013年の自分からの脱皮」
  (大島優子オフィシャルブログ「ゆうらりゆうこ」)

 現在から考えると、この言葉には、新年への「決意」「希望」以上の、AKBからの「卒業」という一大事についてほのめかされていたことが理解できます。最後が「脱皮」です。「脱皮」とは古くなった皮や殻を脱ぎ捨てて、新しい自分になることです。脱ぎ捨てた殻を、再度、着ることはできません。「脱皮」とはリセットではなく、後戻りを不可能にする行為です。41文字の詩的な短文には、AKB48という慣れ親しんだ場を潔く手放す彼女の「覚悟」が記されていたのです。

 臨床心理学者であり組織コンサルタントでもあるウィリアム・ブリッジズは、「転機(トランジション)」という概念に着目する著作で世界的に有名です。「トランジション・モデル」は、移行の心理的プロセスをも意味し、その過程は3つのステージに区分されます。

 1)終わり(Ending, Losing, and Letting Go)
    ↓
 2)中立圏(The Neutral Zone)
    ↓
 3)始まり(The New Beginning)

 「終わり」には、「恐れ」「悲しみ」「喪失感」など「負の感情」が伴います。そして、「始まり」の段階への橋渡しとなる「中立圏」で「負の感情」は増幅し、時に、混乱や深い苦悩をもたらします。

 例えば、学生が卒業して初出社するまでが「中立圏」です。出社日が迫り、気分が落ち込む新社会人は多いものです。これは、社会人生活への「不安」と、学生であった自分を「終える」ことのできない過去への執着が主たる原因です。新社会人として働き始めても、社会人としてのマインドセット(思考様式・心理状態)が調わず、精神的に「中立圏」から抜け出せないまま、早々と会社を去る若者もいます。

 担当者レベルから管理職へと昇進する時も、同様のプロセスが発生します。管理職とは経営側の人間になることを意味し、人を導くリーダーとしての「覚悟」が求められます。平社員であった自分に精神的な「死」を与える苦しみが、「中立圏」で発生するのです。  しかし、内的な「死」は「再誕」を意味します。「さなぎ」が死ぬことで「蝶」になるように、「死と再生」の心理的作業を通して、人は新たな自分を手にいれます。ブリッジズは自著でこう述べます。

 「私たちは新しいものを手に入れる前に、古いものから離れなければならない。それは外的にも、内的にも言えることである」(『トランジション 人生の転機』〈創元社〉)

 異動や昇進は職場が変わる外的な環境変化をもたらします。その時、過去を自らの意志で「終える」内的な変化も求められます。
 卒業の「卒」は訓読みで「おわる」「おえる」。「卒業」は大島優子がいう「脱皮」であり、新しい自分になるための「覚悟」が求められ、自分を成長させる大きなチャンスです。

 卒業とは、新しい人生の扉を開くこと。
 開いた扉をしっかりと閉めることで、新たなステージは真の意味で始まるのです。


バカと笑われるリーダーが最後に勝つ
トリックスター・リーダーシップ
松山 淳



【著者】松山 淳(まつやま じゅん)
リーダーシップ・スタイリスト/コンサルタント/MBTI認定ユーザー。約9年間広告代理店に勤務後、アースシップ・コンサルティング設立。世界の企業が活用するMBTI自己分析メソッドを用い、リーダーたちがその人らしいリーダーシップを発揮できるようにサポートする。「リーダーの自己成長を支援し 人と組織を元気にすることで 世界の家族にたくさんの笑顔をひろげる」を使命に、リーダー層(経営者、起業家、管理職)を対象とした個別相談、コーチング、研修、講演、執筆活動など幅広く活躍中。著書に『バカと笑われるリーダーが最後に勝つ』『『機動戦士ガンダム』が教えてくれた新世代リーダーシップ』などがある。
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