ビジネス
2014年3月28日
AKB48大島優子の言葉に学ぶ「転機」への心得
文・松山 淳
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転機を迎えると「人生の意味」が変わる(フランクル心理学)


 筆者は『バカと笑われるリーダーが最後に勝つ トリックスター・リーダーシップ』(SB新書)の中で、高橋みなみのリーダーシップを考察するため、AKB48のドキュメンタリー映画(『DOCUMENTARY of AKB48』〈東宝〉)を繰り返し観賞した経験があります。
 紅白の舞台で、大島優子が「卒業」を発表する姿をリアルタイムで見た時、映画で知った「負けず嫌いだけど爽やかな潔さ」をもつ彼女の性格特性を思い出し、その内面で何かしら大きな変化があったのだろうと感じました。
 映画では、大島の性格特性を象徴する2つの印象深いシーンがあります。

 第3回AKB48総選挙で、前回1位だった大島は前田敦子に1位の座を奪われます。総選挙が終わり舞台裏に移動すると、大島は篠田麻里子に抱かれて号泣するのです。テレビで見せる明るく元気な大島とは正反対の姿です。この時の心境を「誰とも口をききたくなかった」と彼女は吐露しています。しかし、大島は涙を流し終えた後、ライバルでもある前田のもとに自ら歩み寄り賛辞の言葉を投げかけるのです。

 2012年3月に開催された埼玉アリーナでのコンサートでは、前田敦子がAKB48からの卒業を発表。大島は余りの驚きにステージ上で表情を失います。大島の夢は「女優」になること。卒業は大島が常に強く意識していたことでもあり、前田に先を越される形になりました。しかし彼女は、舞台裏で前田を追いかけ自分から声をかけて、「すごいね、よく決断したね」と涙ながらに前田と会話を交わすのです。

 昨年行われた秋元康との対談で、大島はこう言っています。

 『あっちゃん(前田敦子)が「後輩のために道を作る」と言って卒業したとき、私は正直「それは違うよ」と思っていたんです。(中略)でも、あっちゃんが言っていた通り、先輩として譲るべきかもしれないと、変わってきました』(『AREA』2014.1.13号 朝日新聞出版)

 前田の考え方を受けいれる心の変容が大島に起きていました。卒業した前田の活躍を知り、より高いレベルで自分を見つめる時間が増えていたでしょう。違った価値観を潔く認めた大島には、卒業して自分を飛躍させる心の準備が、すでに整っていたと考えられます。

 ナチスの強制収容所から生還した心理学者V・E・フランクルは独自の心理療法「ロゴセラピー」を確立し、人は生きる意味を探求する生き物であるとし「意味への意志」という概念を提唱しました。
 フランクルはいいます。

「自分の中の、より高い意欲や目標を含んだ、高いレベルで自分自身を見る経験がない限り、人間もまた、その人が本来持っていたであろうレベルより低い所に落ち着いてしまうのである」
(『生きる意味を求めて』V・E・フランクル 春秋社)

 大島は「AKBから卒業する」意義を「後輩に道を譲る」と転換させました。これぞ人としての成長です。ひとつのことに区切りをつけ次のステージに行く、つまり過去の何かから「卒業」しようとする時、私たちはフランクルがいう「自分の中のより高いレベルにある生き方」を追い求めて、新たな「人生の意味」を創造する大きなチャンスを迎えています。

 それは同時に、新しい道を選び取る辛さを受けいれていくことであり、自分の「潔さ」を磨き開花させていく時です。だからこそ、レベルの低い所に落ち着かないために、学生も社会人も「終えるからこそ成長できる」といった高みを目指す自分なりの「人生の意味」を再定義し、それを強く意識していくことが、卒業シーンズンには欠かせないのです。


バカと笑われるリーダーが最後に勝つ
トリックスター・リーダーシップ
松山 淳



【著者】松山 淳(まつやま じゅん)
リーダーシップ・スタイリスト/コンサルタント/MBTI認定ユーザー。約9年間広告代理店に勤務後、アースシップ・コンサルティング設立。世界の企業が活用するMBTI自己分析メソッドを用い、リーダーたちがその人らしいリーダーシップを発揮できるようにサポートする。「リーダーの自己成長を支援し 人と組織を元気にすることで 世界の家族にたくさんの笑顔をひろげる」を使命に、リーダー層(経営者、起業家、管理職)を対象とした個別相談、コーチング、研修、講演、執筆活動など幅広く活躍中。著書に『バカと笑われるリーダーが最後に勝つ』『『機動戦士ガンダム』が教えてくれた新世代リーダーシップ』などがある。
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