ビジネス
2014年3月28日
AKB48大島優子の言葉に学ぶ「転機」への心得
文・松山 淳
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より大きなものに包まれている感覚をもつ(アドラー心理学)


 「楽な道と苦しい道が二択あるとしたら、苦しい道を行け 茨の道を選ぶんだ」
 (大島優子オフィシャルブログ「ゆうらりゆうこ」)

 紅白を終えて年明け1月4日、彼女が「一番心にとどめている」ものとしてブログに記した言葉です。敢えて辛く苦しい道に進むことをギリシア神話の逸話から「ヘラクレスの選択」といいます。「難しく苦しい道にこそ正解がある」。そう諭す著名経営者も多くいます。

 「ヘラクレスの選択」をする時、人を支えるものは何なのでしょうか?

 その答えのひとつにフロイトの盟友アルフレッド・アドラーが提唱した「共同体感覚」があげられます。「共同体感覚」は「Social interest」(社会的関心)と英訳されます。端的にいえば「自分に対するのと同じレベルで自分以外の人や社会に対して関心をもてる感覚」です。「共同体感覚」が弱い人は、自分にばかり意識を奪われ、その結果として人生につまずきがちです。アドラーはいいます。

 「正常な人とは、社会の中に生きており、その生き方が非常に適応しているので、望もうと望まざるにかかわらず、社会がその人の仕事から何らかの恩恵を受けているような人のことです」
 (『個人心理学講義 生きることの科学』A・アドラー 訳岸見一郎 一光社)

 AKB48は、今も東日本大震災の被災地支援を続けています。かつて大きな声をあげていた芸能人、著名人が被災地から姿を消した現在、その社会的評価は今後さらに高まることでしょう。
 2011年5月22日に初の支援活動(岩手県大槌町)が行われました。まだガレキの撤去が進まず悲惨な現状が剥き出しになっている時期です。まさに茨の道を選ぶ「ヘラクレスの選択」。空き地で行われた小さなコンサートでは、被災した子どもたちの笑顔がはち切れました。初の支援活動を終えた後、第2弾『DOCUMENTARY of AKB48』(東宝)の中で大島は言います。

 「AKBって自分の夢のためのステップアップの場所としていた場所だった、自分も歌手になりたいとか思っていなかったんですけど、こんなにも歌で人を笑顔にさせることができるんだな~って、初めてちゃんと、すごいことなんだと思いました」

 ヒットチャートを独占するAKB48の大島でさえ、被災地支援という「茨の道」で、自分の歌手としての仕事を「初めてちゃんとすごいことなんだ」と自覚しています。

 新社会人になったり、異動したり、転職したり、管理職になったり、古い自分を「卒業」することは、時として「茨の道」になります。苦しむこともあります。悲しむことも......。

 ですが、古い自分から脱皮し、それまでとは違う社会的役割を背負うことは、必ず誰かのためになり、自分の仕事に違った価値を見出す時間となります。この社会の中で役立とうとする感覚がアドラーのいう「共同体感覚」であり、私たちの人格をスケールアップさせるのです。
 アドラーは、逃げずに立ち向かい、クリアすべき「人生の課題(life tasks)」が人にはあるのだ、といいました。ひとりの人間が「人生の課題」を卒業するのは、自分のためだけでなく、家族のためになり、職場の仲間のためにもなり、社会のためにもなることです。

 誰もが社会と深く関係し、常に影響を与えうる価値ある存在です。社会や仲間とつながり、より大きなものに包まれていることを知った上で、自分の価値を認める感覚こそが、辛く苦しい「ヘラクレスの選択」を可能にし、「茨の道」を突き進む私たちを支えます。
 自分は誰かのためになり、支えてくれている仲間がいる。
 そうした「自分の価値」や「他者への信頼感」を再認識するのが、転機の春・卒業の春です。

 この春、あなたは何を卒業しますか?

 No flower without rain. 雨なくして、花は咲きません。

(参考文献)
『DOCUMENTARY of AKB48 to be continued 10年後、少女たちは今の自分に何を思うのだろう?』(東宝)
『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』(東宝)
『DOCUMENTARY of AKB48 No flower without rain 少女たちは涙の後に何を見る? 』(東宝)


バカと笑われるリーダーが最後に勝つ
トリックスター・リーダーシップ
松山 淳



【著者】松山 淳(まつやま じゅん)
リーダーシップ・スタイリスト/コンサルタント/MBTI認定ユーザー。約9年間広告代理店に勤務後、アースシップ・コンサルティング設立。世界の企業が活用するMBTI自己分析メソッドを用い、リーダーたちがその人らしいリーダーシップを発揮できるようにサポートする。「リーダーの自己成長を支援し 人と組織を元気にすることで 世界の家族にたくさんの笑顔をひろげる」を使命に、リーダー層(経営者、起業家、管理職)を対象とした個別相談、コーチング、研修、講演、執筆活動など幅広く活躍中。著書に『バカと笑われるリーダーが最後に勝つ』『『機動戦士ガンダム』が教えてくれた新世代リーダーシップ』などがある。
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