スキルアップ
2014年4月15日
ズルさで勝ることで先手が打てる!
――水平思考のススメ【後編】
[連載] ずるさで勝る水平思考トレーニング【2】
文・木村尚義
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QBハウス創業に学ぶ「水平思考」


 街の床屋さんが全盛だった時代は、「24時間戦えますか?」という有名な栄養ドリンクのキャッチコピーが流行した時代です。
 モーレツ社員が、息抜きに床屋さんに行っていたのです。

 そこでは、順番を待つ間にマンガや週刊誌を読むことができます。いまでいう「マンガ喫茶」のような利用をされていました。
 調髪はもちろん、シェービング、マッサージなど、リラクゼーション効果も期待されていたのが当時の床屋さんなのです。

 ところが、そうした息抜きは内容が多様になり、選べるようになってきました。
 床屋さんでは頭髪のカットだけをしたい...。
 なのに、髪の毛を切るだけで半日つぶれてしまいます。

 1000円カットで有名なQBハウスは、1996年に小西國義氏が55歳で開業しました。
 医療機器商社出身の小西氏は業界どころか美容院の経営も知らないので、常識を一切知りません。
 床屋さんに行くたびに、蒸しタオルを取りに行ったり、床を掃除したりと、なんと無駄な作業が多いことかと感じていたのです。

 「もっと手順を効率化すれば短時間でカットできるのでは?」。
 小西氏は、髪の毛を切られている間、次のように時短のことを考えていたのでしょう。

 とにかく、カットのみに特化して、顔そりもなければマッサージもしない。
 かわりに10分間で終了。
 その10分を維持するためには、理容師の手間から削減しよう。

 そう考えると、予約を受け付ける電話もいらない、レジもいらない。
 釣り銭補充の手間を減らすため1000円だけを受け付ける券売機を設置しよう。
 1万円札を持っていても、両替しない。
 券を買えないお客様はカットをしない。ならば、お客様は自然と千円札を用意して来店するだろう。

 小西氏は、10分カットに特化して他は一切のサービスをしないことを決めたのです。

 街の床屋さんとは逆の発想で、「10分間の身だしなみ」というキャッチコピーで開業します。
 QBハウスを見た街の床屋さんの、「あんなのはすぐ潰れる」という予測(期待?)を裏切り、10分カットは、神田のビジネス街から世界へと広がっていったのです。

 国内だけでも累計1400万人(2013年)の来店者数。
 これには、さすがに理髪業界も黙ってはいられず、「1000円カットはサービスがずさんだ」「洗髪をしないから不潔だ」などと、難癖をつけて行政に訴えます。

 しかし、トレンドは戻りません。
 1000円カットに訪れるお客様の欲求は、洗髪やマッサージよりも、「安価で時間を短くしたい」なのです。

 誰もが床屋さんに訪れているはずなのに、小西氏だけがそのことに気がついて、QBハウスを開業したのです。

水平思考なら「勝てる側」に回れる!


 QBハウス創業の事例のように、いち早く鉱脈(環境の変化)を発見した人が勝つ世の中です。

 環境の変化はいくらでも見つけられます。
 何かを見るたびに、これが常識だと考えずに、「あれ、おかしいよな?」と考えればよいのです。

 鉱脈に気がつけば、たとえ個人であっても、1000円カットのように「勝てる側」に回れます。
 そのためには、簡単な思考のコツをマスターするだけです。

 ただし、秘訣を知っただけで身につけられるような単純な思考ではありません。
 筋トレと同じです。
 スポーツのコツを聞いただけで、いきなり試合には出ないでしょう。

 コツを知ることはもちろんですが、トレーニングは欠かせません。
 忘れずに続けていれば、いつの間にかにマスターできてしまうのです。

 見る角度を増やすトレーニングを続ければ、「水平思考」は誰にでもマスターできます。
 小西氏のように、個人でもチャンスを発見できれば、新風を起こせるのです。

 さあ、次はあなたの番です。
 チャンスは先に気がついた人のものです。

 デフレからインフレに変わっているいま、いろいろな常識が変わり始めています。
 いち早く「鉱脈」を見つけて、チャンスを活かしてください。

(了)





ずるさで勝る水平思考トレーニング
木村尚義 著



【著者】木村 尚義(きむら なおよし)
株式会社創客営業研究所代表取締役。アカデミーヒルズ六本木ライブラリー個人事業研究会会長。ヒットビジネスジャーナリスト。流通経済大学卒業後、汎用機SEを経て、OA機器販売会社へ。売上げ不振パソコンショップの運営を命じられ、たった一人で秋田に赴任。ラテラルシンキング(水平思考)を駆使した逆転の発想で5倍の売上を達成。その後、外資系IT教育会社にて、これまでの経験を生かした研修・セミナーを展開し、3万人超の受講者から好評を得る。従来の発想の枠を超え、常識にとらわれないビジネススタイルを「創客営業」と名づけ、全国にて逆転の発想セミナーを実施中。費用対効果を追求しすぎて閉塞感ただよう現状を打開したい一心で執筆しベストセラーとなった『ずるい考え方――ゼロから始めるラテラルシンキング入門』(あさ出版)をはじめ、『ずるい思考術練習帳』(小学館)など著書多数。



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