カルチャー
2014年4月16日
武士道、茶室、着物...。日本とUAEの意外な共通点とは!?
[連載] 住んでみた、わかった! イスラーム世界【5】
文・松原直美
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モスクも茶室も内部は、身分を問わない平和な空間


 イスラーム教徒と日本人の道徳や行動には、このように多くの共通点がありますが、日本の茶道をUAE人と一緒に稽古していくうちに、モスクと日本の茶室にもその構造や中で行う動作に多くの類似点があることがわかってきました。

 イスラーム教徒が礼拝を行うモスクには入り口そばに必ず水道があります。モスクで礼拝をする前は必ず手を洗い、次に口をすすぎ、鼻、顔、腕......と続きます。一方、茶道では茶室が建っている敷地に「つくばい」という手水鉢(ちょうずばち)が置いてあります。茶室へ向かう客は手水鉢に備えられている柄杓で手を清め、次に口をすすぎます。モスクに入る前の方が清める部位が多いですが、モスクでも茶室でも入る前に手を清め次に口をすすぐところがまったく同じです。

 右手はきれいなものを、左手はそうでないものを扱う、という考え方も同じです。イスラーム教徒は右手を使って食べますが、茶道でもきれいな道具は主に右手で扱い、使用済みの水を入れる道具は左手で扱います。

 モスクと茶室の概念も同じです。モスクの内部は平和であり、誰もが平等で貴賎の差がなくなるので、首長と一般の人々が隣り合わせで礼拝することもあるそうです。茶室の中もモスク同様、身分を問わず誰とでも同席できる平和な空間です。茶道が発展した戦国時代、武将たちはこぞって茶道に熱をあげましたが、武士は茶室に入るとき帯刀を許されず、刀は茶室外に預けておかなくてはなりませんでした。

モスク内での動きは、茶道の立ち居振る舞いによく似ている


『住んでみた、わかった! イスラーム世界』

 モスクも茶室も構造がとてもシンプルで、両方とも入り口で靴を脱ぎ、椅子ではなく床に座るのも同じです。カトリック系のキリスト教教会には壁に絵画が掛かっていたり彫刻が置いてあったりしますが、モスクは照明がある以外はガランとしています。日本の茶室はいっさい家具をおかず床の間に軸や道具をほんの少し飾るのみです。

 「モスク内での動きが茶道の立ち居振る舞いに似ている」と教えてくれたのは京都にも茶道研修に行ったことがあるセイフ君です。イスラームの礼拝では、規則に則って立ったり座ったりお辞儀をするという一連の動作をします。一方、茶道でも決まったタイミングで亭主と客がお辞儀をしたり立ったり座ったりします。このように規則に沿って「立つ・座る・お辞儀をする」という動きを繰り返すことが、イスラームの礼拝の動作と茶道の動作に共通に見られるそうです。

 服装に関してはモスク内も茶室内も控えめな服装で入る、ということが似ています。モスクに入るとき、女性は髪の毛と全身の肌を覆わなくてはなりません。茶室には女性に対しこのような規則はありませんが、スカートの場合、座ったときに膝が隠れる丈つまり長めのスカートを着用すべきとされています。ノースリーブも好ましくありません。

 茶室内は少なからぬ規則があり、それにみんながのっとって行動するところにえもいわれぬハーモニーが生まれますが、モスク内もまさに同じことが言えるようです。

「茶道はちょっと堅苦しい」と思う人は日本人にも多くいますが、イスラーム教徒からはそうした言葉をほとんど聞きませんでした。

(了)





住んでみた、わかった! イスラーム世界
目からウロコのドバイ暮らし6年間
松原直美 著



【著者】松原 直美(まつばら なおみ)
1968年東京生まれ。上智大学経済学部卒業。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際関係学専攻博士後期課程退学。タイの公立高校日本語講師を経て、ドバイへ2006年に移動。UAE国立ザーイド大学にて日本語指導と空手道の初代講師として、2007年~2012年まで勤務。UAEでは茶道の振興にも携わった。現在はロンドン在住だが、UAEと日本の架け橋となるべく活動を続けている。著書に『住んでみた、わかった! イスラーム世界』がある。 ブログ「ドバイ千夜一夜」(http://blogs.yahoo.co.jp/dubai1428)は、2007年から連載をはじめ、もう少しで1000回を数える。
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