カルチャー
2014年5月12日
夕方の「体温コントロール」で寝つきの悪さを解消!
[連載] 9割の不眠は「夕方」の習慣で治る【1】
文・白濱龍太郎
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眠りのサインは「夕方」にキャッチする


 昼間はあんなに眠かったのに、ベッドに入るとなかなか寝つけない......。そんな悩みを持つ人が、次々と私のクリニックに訪れます。
 仕事のことが気になって寝つけないという人だけでなく、とくに大きなストレスはないのに眠れないという人もいます。状況は様々ですが、第一に実行していただきたい解決のヒントは、皆さん共通しています。

 それは、夕方以降の「体温コントロール」です。

 後述しますが、眠気は体の奥の体温が高い状態から低い状態に下がる落差によって、グッと大きくなります。この体の中心部の体温のことを、深部体温といいます。
 夏場、とても暑い外から冷房がきいた室内に入ると、心地よくなってうたた寝したくなるのは、深部体温が急に下がったためです。

 ただ、実は人間の体は冷房がなくても、自然と温度が上下するようにできています。
 下がり始めるのは起床から11時間後。仮に朝6時起床の場合、17時頃に最も体温が高くなり、その後夜にかけて徐々に下がっていきます。
 夜に眠気を感じたとき、手の平が熱くなったことはないでしょうか? あれは熱を放出しているからです。
 このように、人間の生体リズムは、夜には自然と眠れるようになっているはずなのです。

 つまり、ベッドに入っても寝つけないのは、ストレスの問題以前にこの生体リズムが崩れている可能性が高いといえるのです。

 肝心なのは、夕方にいかに深部体温を上げるか、ということ。

 先述の通り、夕方に体温のピークが来るのは朝6時の起床によります。ただ、一度や二度この時間に起きたくらいでは、体温のリズムはほとんど修正できません。単純な眠気のサイクルと違って、体温のリズムは一度慢性的にズレると、なかなか治らないという人体の法則があります。
 とはいえ、打つ手がないわけではありません。

 解決法は単純です。
 夕方に、簡単なある運動をするだけでいいのです。

夕方に肩甲骨まわりを動かして体温を上げておく


 運動といっても、フィットネスクラブで行うような激しいランニングや筋肉トレーニングを行う必要はありません。背中、とくに肩甲骨を動かすことを意識して、5分間簡単な体操をするだけで十分です。

 肩甲骨のまわりには、褐色脂肪細胞という体温を上げる細胞が集中しています。ここを中心に体を動かすだけで、効率的に深部体温を上げることができます。

 体操は座ったままでもOKです。
 まず、胸を張った状態で上腕を片方の腕で抱え、肘を伸ばします。
 その後、肩甲骨が伸びているのを意識しながら、上半身をじっくり前に倒していきます。
 今度は上体をそのままねじり、横を向くようにして肩甲骨を伸ばします。このとき、肩を前に押し出すようにするのがコツです。
 これを5分間、慌てずにじっくり行います。

 するといかがでしょうか。たった5分間とはいえ、終了後、肩甲骨のまわりがぽかぽかと温かくなっているのを実感するでしょう。
 多忙な生活が続いて、ベッドに入る時間が遅くなっても、この体操を夕方に挟むだけで夜は自然と体温が下がってくるはずです。

 本当は、起床後11時間後に体温の上昇はピークを迎えます。しかし、残業や夜の飲み会などのイベントで、毎日同じ時間にベッドに入れるとは限りません。すると体温はイレギュラーに上下し、上昇のピークがじわじわと後ろにズレていきます。

 大切なのは、夕方の時間に深部体温を上げて、徐々に眠りのスイッチを入れていくこと。肩甲骨まわりを適度に動かすことで、体に「体温がピークの時間だよ」と上手に嘘をつくのです。そうして体温のリズムを一定に保っておけば、日々の眠くなる時間はブレることなく入眠をコントロールできるのです。

 外に出て公園などでゆっくり行うのもいいですが、座ったままできるたった5分の体操なので、オフィスでも実践可能なはずです。ぜひ実践してみてください。





9割の不眠は「夕方」の習慣で治る
白濱龍太郎 著



【著者】白濱龍太郎(しらはま りゅうたろう)
睡眠専門医・RESM(リズム)新横浜睡眠呼吸メディカルケアクリニック院長。関東初の睡眠時無呼吸症候群の病院長を務め、現在は新横浜に、寝具メーカー丸綿本社内に、睡眠障害、呼吸器内科疾患専門のクリニック「RESM(リズム)新横浜」を開設。いま多くのビジネスパーソンを悩ます、睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシー、むずむず脚症候群、REM睡眠行動障害等の保険診療が可能な専門施設として注目される。治療にとどまらず、栄養指導や生活習慣指導を実施。自身も体調管理や健康への意識は高く、休日にはサーフィンやトライアスロンの大会に出るなどアクティブに活動。最近はワールドビジネスサテライト出演、日経新聞掲載をはじめマスコミ露出が多く、休診日には全国にて講演を行うなど、「睡眠」の分野でいま最も注目されるドクターである。著書に『病気を治したければ「睡眠」を変えなさい』(アスコム)、『9割の不眠は「夕方」の習慣で治る』(SB新書)などがある。
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