カルチャー
2014年5月20日
寝つきをよくしたければ、帰りの電車でゼッタイ眠るな!
[連載] 9割の不眠は「夕方」の習慣で治る【2】
文・白濱龍太郎
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帰りは階段を使う、一駅歩くだけで入眠のスイッチが入る


 帰宅時に意識すべきポイントとして、あわせて紹介したいのが「運動量を増やす」ということです。
 といっても、何も走って帰るというようなハードな運動をする必要はありません。むしろうっすら汗をかくくらいの、ささやかな運動の方が望ましいでしょう。

 これは、体温の緩やかな落差を作るための働きかけの一環です。前回説明した通り、体温を意識的に上げておくことで、その後放熱により体温が下がり、スムーズな入眠につなげやすくなります。

 具体的な内容では、ストレッチやヨガなど、比較的軽い運動を15分程度、自宅で行うのが理想です。
 ただし、たった15分とはいえ、帰宅後の貴重な時間のなかで運動を習慣化するのは想像以上にハードルが高く、長続きしない人も少なくありません。

 そこでおすすめなのは、帰路の駅内ではエスカレーターではなく、階段を使うこと。また駅から自宅まで距離があり、自転車通勤をしている人は徒歩で帰宅。駅まで近い人は、一駅分歩いて帰ることを心がけるとなおよいでしょう。

 要は帰宅までの過程で、入眠のスイッチを少しずつオンにしておく、ということが有効です。軽く交感神経を刺激して、その反動で副交感神経を活性化させ、じわじわと眠気を演出する、というのが狙いです。

 逆に避けたいのが、激しい運動を就寝までの3時間以内に行うこと。体温が上がっても、交感神経を著しく刺激してしまい、興奮してなかなか眠れないという失敗に陥りがちです。
 たとえばジョギング習慣のある人は、就寝予定までの時間を逆算して走行時間を調整するのがベターです。

夜のお酒は眠る3時間前までに


 ある統計によると、日本人は世界一寝酒が好きな民族という特徴があるそうです。
 確かに私のクリニックの患者さんのなかにも、「ベッドに向かう前に飲まないと眠れない」という寝酒が習慣化してしまっている人もいます。

 しかし、断言します。寝酒は睡眠の質を確実に低下させます。今日からでも、睡眠の直前にアルコールを摂取することを控えてください。

 お酒を飲むと一時的に血行がよくなり、体温が上がります。その反動で体温が下がるためにスムーズに入眠できるのでは、と考える人もいるでしょう。

 確かに眠くなりますが、アルコールは摂取してから3時間ほど経つと、アルデヒドという毒性物質に分解されます。これが交感神経を刺激して、覚醒効果を生じさせます。
 つい飲み過ぎてそのまま眠ってしまった夜に、ふと数時間後に目が覚めてしまった経験がある人もいるかと思います。それは、アルデヒドが交感神経を刺激していたからなのです。

 飲酒のタイミングは、激しい運動と同じく就寝の3時間前まで。もし、仕事上の飲み会などで遅くまで飲酒をする機会があるときは、就寝時間をズラして、アルコールが分解されるのを待ってから眠るのが鉄則です。

 そのほか、タバコのニコチンやコーヒーなどに含まれるカフェインも、覚醒作用があります。これらの摂取も、就寝の3時間前までにするようにしましょう。

 飲酒や喫煙で体がリラックスできているつもりでも、実は交感神経を刺激しているので、体は覚醒に向かって働きます。そうなると、いくらスムーズに眠ることができても体は休まらず、疲労感は取れません。
 睡眠の質を低下させないためにも、飲酒や喫煙は摂取のタイミングをコントロールすることを意識しましょう。


 いかがでしたでしょうか?
 これまで2回に渡って「眠りにつながる夕方以降の習慣」を取り上げてきました。
 入眠のポイントは、体温リズムを知り、夕方に体温を高めることです。

 ここでお断りしておきたいのが、取り上げた方法のすべてが、すべての人に効果があるとは限らないということです。
 もし、実践後になかなか睡眠の質が改善されないと感じたときは、「不眠症」の可能性も考えられますので、睡眠に関する専門医のいる医療機関で受診されることを強くおすすめします。

 人生の3分の1の時間を費やす睡眠は、仕事だけでなく、プライベートや健康管理などにも関わるライフスタイル全体の「基盤」となっています。つまり睡眠の質は、人生の質を左右するといっても過言ではありません。
 夕方の習慣が快眠のきっかけとなり、それがあなたの豊かな人生の支えとなれば幸いです。

(了)





9割の不眠は「夕方」の習慣で治る
白濱龍太郎 著



【著者】白濱龍太郎(しらはま りゅうたろう)
睡眠専門医・RESM(リズム)新横浜睡眠呼吸メディカルケアクリニック院長。関東初の睡眠時無呼吸症候群の病院長を務め、現在は新横浜に、寝具メーカー丸綿本社内に、睡眠障害、呼吸器内科疾患専門のクリニック「RESM(リズム)新横浜」を開設。いま多くのビジネスパーソンを悩ます、睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシー、むずむず脚症候群、REM睡眠行動障害等の保険診療が可能な専門施設として注目される。治療にとどまらず、栄養指導や生活習慣指導を実施。自身も体調管理や健康への意識は高く、休日にはサーフィンやトライアスロンの大会に出るなどアクティブに活動。最近はワールドビジネスサテライト出演、日経新聞掲載をはじめマスコミ露出が多く、休診日には全国にて講演を行うなど、「睡眠」の分野でいま最も注目されるドクターである。著書に『病気を治したければ「睡眠」を変えなさい』(アスコム)、『9割の不眠は「夕方」の習慣で治る』(SB新書)などがある。
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