ビジネス
2014年6月2日
『機動戦士ガンダム』が教えてくれたリーダーシップの本質
文・松山 淳/監修・株式会社サンライズ
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アムロを立ち直らせたブライトの言葉


 アムロが無気力状態へと傾いていったのは、戦闘による疲労困憊もありますが、ホワイトベースの最高責任者であるブライトから、自分の働きを認めてもらえないことも大きかったと考えられます。

 誰かから認めてもらいたいと願う「承認欲求」は、人の本能的な欲求です。働いても働いても他人から評価されないと「承認欲求」が充足されず、心のエネルギーが枯渇し、働く意欲が低下していってしまいます。

 第1話から第9話までセリフをつぶさに追いかけていくと、ブライトがその働きを評価し、アムロに褒め言葉を直接投げかけるシーンは皆無です。アムロの才能をブライトは評価し、他のクルーに対しては言っていたのですが......。では、モチベーションがダウンしたアムロの「やる気スイッチ」をオンにしたのは何だったのでしょうか? それは、ブライトのこのセリフです。

 "アムロ、今のままだったら貴様は虫ケラだ。それだけの才能があれば貴様はシャアを越えられる奴だと思っていた。残念だよ"(第9話『翔べ!ガンダム』)

 アムロを批判しているようですが、実はこのセリフにはアムロへの賞賛が含まれています。それは「貴様はシャアを越えられる」です。地球連邦軍で「赤い彗星」と恐れられたシャア・アズナブルと渡り合うことは、アムロの高いセルフ・イメージに一致しています。そのことをブライトは理解してくれていたのです。「シャアを越えられる」というブライトからの初めての賞賛の言葉は、アムロのやる気のツボを的確にとらえ、彼の心にエネルギーを急速充電したものと考えられます。

 経営学者ピーター・ドラッカーの著に、こんな言葉があります。

 「人に成果をあげさせるためには、『自分とうまくやっていけるか』を考えてはならない。『どのような貢献ができるか』を問わねばならない。」(『プロフェッショナルの条件』〈ダイヤモンド社〉)

 第9話のこのシーンでは、ブライトがアムロを二度も殴ります。「貴様は虫ケラだ」も、極めて厳しい表現です。ブライトはアムロと「うまくやっていくこと」を望んでいたのではなく、アムロがシャアを越えるパイロットになり、地球連邦軍の勝利に大きな貢献を果たす「一流の人材になれる」と期待していたのです。

 ブライトは最後に「残念だよ」と言いました。この言葉は、部下を叱る時のキラー・フレーズとして多くのリーダーが職場で活用しています。「残念だよ」とは、期待の裏返し表現です。例えば、「君の実力があれば必ずできるのに、努力しないのは残念だよ」といえば、部下への期待を表明するポジティブな意味を含む叱り言葉になります。期待されていると知ることは、「やる気」の源泉です。

 ブライトは「残念だよ」と言うや否や、アムロの部屋を出ていきます。その後どうするかは、アムロに「任せて」「待つ」姿勢を見せました。部屋に乗り込んできたのはアムロを「巻き込む」ためであり、「3M」を実践するブライトは、貢献に焦点を合わせて、友好的ではないが故に有効的なリーダーシップを発揮できたといえます。



『機動戦士ガンダム』が教えてくれた新世代リーダーシップ
松山 淳 著  株式会社サンライズ 監修



【著者】松山 淳(まつやま じゅん)
リーダーシップ・スタイリスト/コンサルタント/MBTI認定ユーザー。約9年間広告代理店に勤務後、アースシップ・コンサルティング設立。世界の企業が活用するMBTI自己分析メソッドを用い、リーダーたちがその人らしいリーダーシップを発揮できるようにサポートする。「リーダーの自己成長を支援し 人と組織を元気にすることで 世界の家族にたくさんの笑顔をひろげる」を使命に、リーダー層(経営者、起業家、管理職)を対象とした個別相談、コーチング、研修、講演、執筆活動など幅広く活躍中。著書に「バカと笑われるリーダーが最後に勝つ」「『機動戦士ガンダム』が教えてくれた新世代リーダーシップ」などがある
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