リーダーシップとは、悔しいけれど部下を育てて人間をつくること

　アムロはブライトにインスパイアされた後、幼なじみであるフラウ・ボゥの後押しもあり

　"悔しいけど、僕は男なんだな"（第9話『翔べ！ガンダム』）

という名ゼリフを残し、ガンダムに搭乗して戦場へと飛び出していきます。この時アムロは天才的な操縦技能を発揮し、地球の引力に逆らいガンダムを空中にジャンプさせながら戦う離れ業をやってのけるのです。ホワイトベースのブリッジで、フラウ・ボゥに"ブライトさん、アムロがあんな戦い方をしている"と声をかけられると、ブライトはアムロの勇姿に頬をゆるませ、とても嬉しそうに言いました。

　"ああ、あいつのいいところだ。ふさぎ込んでいても戦いのことを忘れちゃいなかった"（第9話『翔べ！ガンダム』）

　そのゆるんだ表情から、ブライトがアムロを成長させるために敢えて厳しく接していたことが理解できます。決してアムロを評価していなかったわけではないのです。

　ピーター・ドラッカーは、こうも言っています。

　「真に厳しい上司とは、つまるところ、それぞれの道で一流の人間をつくる人である。彼らは、部下がよくできるはずのことから考え、次に、その部下が本当にそれを行うことを要求する」（『プロフェッショナルの条件』〈ダイヤモンド社〉）

　ホワイトベースの指揮官ブライトは、地球連邦軍に入隊して6ヶ月が過ぎた士官候補生に過ぎませんでした。物語の前半では経験のなさが露呈し、生真面目な性格の神経質な側面が目立ちイラつくことが多くありました。感情的になりアムロに手を出したことは、現代の職場では「パワハラ」と裁かれてしまうかもしれません。

　しかし、アムロの「よくできるはずのこと」（ガンダムの操縦）を考え、その成長を真剣に願い、高みを目指した仕事を要求する厳しさをもつという点において、ブライトはリーダーシップの本質を理解し、その基本をしっかりと守っていたと言えます。

　そうしてブライト自身も、物語の後半に向けて風格のあるリーダーへと成長していきました。つまりブライトは、アムロという課題を抱え、悩みながらも、その課題から逃げずにアムロを育てることで、自分を育てていったのです。

　今日もどこかの街のどこかの職場で、アムロのように反抗的・侮蔑的な態度をとる部下を前にして、悔しい思いをしているリーダーがいることでしょう。それがリーダーシップを発揮する現場にあるリアルな現実です。腹が立ちますし、殴りたくもなります。そうした負の感情を抱くことは、どんな優れたリーダーにも日常的に起きていることです。リーダーとてひとりの人間なのですから、負の感情をもつ自分に罪悪感を抱くことはありません。どうぞ自分を裁かないでください。

　悔しい思いをしながらも、「巻き込み」「任せて」「待つ」という「3M」を実践し、私たちリーダーがぐっとこらえて部下を育てるのは、それが「自分育て」にもなり、社会に貢献できる「一流の人間」をつくるという偉業に挑戦しているのだと、心のどこかで気づいているからではないでしょうか。

　よく考えてみると、人を育てることは古今東西言われる「尊い行い」です。だからこそ、リーダーシップには「苦悩」と「やり甲斐」が表裏一体となって同居しているのだと言えます。

　尊さに苦はつきもの。苦なき尊さはまやかし。

　もし、部下を育てることに悩んでいたら、その悩みは、あなたがしていることの尊さを証明しています。尊い行いをしている人が、めげてはいけません。

　リーダーシップとは、人づくりを通して自分をつくりあげる尊い行い。

　35年の時を越えて、指揮官ブライト・ノアの苦悩とその成長から導かれる教訓は、現代にも通用するリアルなこととして、リーダーシップに求められる大切なことを教えてくれています。

（了）