カルチャー
2014年6月11日
サラリーマンに深刻な過敏性腸症候群
[連載] 『腸をダマせば身体はよくなる』より【2】
辨野義己
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腸は脳並みに賢いのでダマされる


 最近は腸ブームで、腸内環境の良し悪しが健康や病気だけでなく、若さや寿命をも決定づける、として注目されています。腸内細菌に関する研究論文の数を見ても、1990年代は世界で年間100報前後だったのが、ここ2、3年は年間1200報以上です。ところが昔、腸は臓器としても、まったく重要視されていませんでした。

 雑誌『文藝春秋』(2013年5月号)の「腸内細菌が寿命を決める」という企画で、がん研有明病院の名誉院長、武藤徹一郎先生とお話しする機会があったのですが、「大腸なんて臓器として重要でないし、単なるクダということで、昔は大腸を専門にしていると不思議がられたものですから、時代が変わったものですね」とおっしゃっていました。昔はまさに医者までも、腸にダマされていた時代だったのです。

 ところが、1980年代になると、身体のあらゆる器官をコントロールしている脳と同じ機能が腸にもあることがわかり、「腸は第二の脳」といわれるようになりました。単に食べ物を消化・吸収し、ウンチを送り出すだけの臓器ではなく、脳に次いで多くの神経細胞が腸にある「脳腸相関」についてのことがわかったのです。

 さらに最近では、腸内細菌が脳の機能を左右していることがわかり、実は「腸は第一の脳」といわれるようになりました。腸内細菌のつくる物質と脳が相関し合う「腸脳相関」について、明らかになってきたのです。

 このようなことを書くと、いくらなんでも腸が脳よりも先に来るっていうのは......と思う人も多いかもしれません。ところが、『主治医が見つかる診療所』(テレビ東京系列)というテレビ番組の「腸と脳を元気にするSP」という回に出演したとき、私をはじめ多くの先生方が腸は第一の脳、腸脳相関という考え方を支持したのです。少なくとも、腸が脳と同じくらい重要な臓器であることに間違いはありません。

 みなさんが想像している以上に、腸は脳と同じように、神経細胞のネットワークを駆使して機能しているのです。「腸は神経の網タイツをはいている」(藤田恒夫著『腸は考える』岩波新書)といわれるほど、腸壁の神経細胞はたくさんあり、その数は脊髄と同じくらいなのです。

 ですから、人間は死んでも、脳の命令なしにしばらくの間、まるでとかげのシッポのように、腸だけは動いています。つまり、腸独自の神経細胞が働いているのです。

 このように腸は脳並みに賢いため、私たちはダマされてしまうのです。





腸をダマせば身体はよくなる
辨野義己 著



【著者】辨野 義己(べんの よしみ)
1948年大阪府生まれ。独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室長。 農学博士。DNA解析により腸内細菌を多数発見。腸内細菌と病気との関係を広く調べ、ビフィズス菌・乳酸菌の健康効果を広く訴えている。「うんち博士」としても、テレビ・雑誌等マスコミに登場。ヤクルト、協同乳業、ビオフェルミン、フジッコ、森永乳業、東亜薬品工業など7社出資で、理化学研究所内に辨野義己特別研究室を開設。著書に『大便通』(幻冬舎)、『見た目の若さは腸年齢で決まる』(PHP)、『腸をダマせば身体はよくなる』(SB新書)などがある。



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