カルチャー
2014年6月25日
意外!? インフルやノロも半日で治す「漢方薬」の速効性
[連載] 西洋医が教える、本当は速効で治る漢方【1】
文・井齋偉矢
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西洋薬の利点と落とし穴


 「昔は抗菌薬のような特効薬がなかったから、仕方なく漢方薬が使われていたのでは?」そう思う人もいるでしょう。

 もちろん、感染症の治療をする場合、原因となる細菌に感受性のある抗菌薬があったほうが絶対的に有利です。私は抗菌薬を始めとする西洋薬を否定するつもりはありません。日々の診療でも西洋薬が効く症状に対しては迷わず西洋薬を処方していますし、西洋薬と漢方薬を併用することは日常茶飯事です。

 しかし、西洋薬だけで急性期医療を行なうことに限界があるのも事実です。これは私だけでなく、医者の多くが日常診療の中で感じていることだと思います。

 近年になって抗菌薬が開発されたことにより、かつて〝死病〟と恐れられてきた、いくつもの伝染病を終息させることに成功しました。これは高く評価すべきことですが、だからといって西洋薬が感染症に対して万能かというと、決してそうではありません。

 病原菌が特定されている細菌性の感染症には、抗菌薬は絶大な効果を発揮します。ところが、ウイルス性の感染症に対しては、一部のものを除いて特効薬が存在しません。前出のノロウイルスにも無力ですし、ロタウイルスに対しては数年前にやっとワクチンができたくらいです。

 そもそも、細菌性の感染症についても、抗菌薬は病原菌を殺すだけで、患者さんが苦しんでいる「炎症」を鎮める力はありません。じつはここに西洋薬の落とし穴があります。最もわかりやすい例として肺炎のケースで説明しましょう。

 肺炎は、肺に細菌やウイルスなどが感染して炎症を起こす病気です。その治療は抗菌薬の投与が中心で、あとは必要に応じてセキを鎮めたりタンを切ったり熱を下げたりする薬が補助的に使用されます。

 一見、十分な治療が施されているように思えますが、大きな落とし穴があります。肺炎というのは、前記したように肺で激しい炎症が起こっている状態です。抗菌薬で病原体を叩くことはもちろん大事ですが、それだけでは肺炎そのものを治していることにはなりません。いってみれば、放火犯を逮捕して火事を放置しているようなものです。

 一刻も早く、肺の中で燃え盛っている炎(炎症)を鎮めないと、肺は焼け野原となり、とりかえしのつかないことになります。

炎症を抑え、体の免疫力を高める働き――漢方薬に速効性が生まれる理由


 西洋薬の中には、炎症を強力に抑える薬が2つあります。副腎皮質ホルモンとNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)です。いずれも速効性のあるとても優秀な薬ですが、一方で、体の免疫力を大幅に低下させてしまうという難点があります。そのため、衰弱している肺炎の患者さんに使用すると、おそらく肺炎が悪化します。とても恐くて使用できません。

 では、肺に起っている炎症に対して、現代医学はどのように対処しているかというと、じつは何もしていません。患者さんの自然治癒力にまかせているのが現状です。

 これは医者の側も意外に気づいていない場合が多いのですが、肺炎の患者さんは、かなりの部分を自力で治していることになります。その結果として、体力のない高齢者などは炎症を鎮めることができず、命を落とすことが少なくないのです。

 これに対して、漢方薬のほとんどは炎症を抑える働きを持っています。しかも同時に、体の免疫力を高める働きがあります。つまり、抗菌薬(ウイルス性ならステロイド)と一緒に漢方薬を使用すると、肺炎はすみやかに解消されるのです。

※クリックすると拡大

 実際に、うちの病院では肺炎の患者さんに、抗菌薬(またはステロイド)と共に、小柴胡湯(しょうさいことう)という漢方薬を使っています。この例では、肺の炎症(白い影)は5日くらいできれいに消えました。

 肺炎というのは、高齢化社会の現在ではごくありふれた病気です。いまや日本人の死亡原因の第3位であり、高齢者に限ると死因の第一位が肺炎です。その肺炎に対して、現代医学は十分に対応できていないのです。

 肺炎に限らず、炎症はほとんどの病気に関係しています。そこをしっかり治療できないまま、現代医学は病気の治療を行なっているのです。

 炎症を抑えること、そして体の免疫力を高めること、じつはこの2つの働きこそが、漢方薬の速効性を生み出す〝肝〟であり、急性期疾患に効果を発揮する最大の理由でもあります。

(第1回・了)





西洋医が教える、本当は速効で治る漢方
井齋偉矢 著



【著者】井齋偉矢(いさいひでや)
1950 年、北海道生まれ。北海道大学卒業後、同大学第一外科に入局。専門は消化器外科、肝臓移植外科で日本外科学会認定専門医。1989 年から3 年間オーストラリアで肝臓移植の臨床に携わる。帰国後独学で漢方治療を本格的に始め、現在、日本東洋医学会認定専門医・指導医。2012 年にサイエンス漢方処方研究会を設立し理事長を務める。医療法人静仁会静仁会静内病院(漢方内科・総合診療科)院長。著書に『西洋医が教える、本当は速効で治る漢方』がある。
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