カルチャー
2014年7月28日
肥満も腸内細菌に左右されている!
[連載] 『腸をダマせば身体はよくなる』より【6】
辨野義己
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やせ型、肥満型の体型は、腸内細菌が決めている!


 大食いなのにやせている。普通の人と同じ量の食事を摂ると太ってしまう。このような人はめずらしくありません。やせの大食いでも、内臓脂肪がたまっている人もいますが、太りにくい体質、太りやすい体質があるのは事実です。

 肥満ががん、脳疾患、心臓疾患の三大疾病をはじめとした生活習慣病の引き金になることを知っている人は多いでしょう。健康に関心がある人で、「メタボリックシンドローム」という言葉を知らない人はいないと思います。実際、健康管理のひとつとして、肥満にならないよう気をつけている人は少なくありません。

 この肥満についても腸内細菌が関係していることが、2006年、イギリスの有名な科学雑誌『ネイチャー』に「肥満に付随してみられるエネルギー回収能力の高い腸内細菌」という論文で発表されたのです。

 私はこの論文を読んだとき、大きな衝撃を受けました。たしかに腸内細菌が棲む大腸は「病気の発生源」という認識はありましたが、まさか、肥満にまで影響を及ぼすなどというような認識は、正直ありませんでした。

 私の腸内細菌研究のスタートは、やはり大腸疾患、とりわけ大腸がんそのものだったからです。「肥満と腸内細菌」の関連性について論議が交わされるようになって、まだ数年しか経っていませんが、やはり腸内細菌は現代医療研究のトップランナーなのだと再認識しているところです。

 人間の腸内細菌の約90%は、バクテロイデス類かファーミキューテス類のどちらかに属しています。この論文を発表した研究チームが、肥満の人とやせている人の腸内細菌の構成を調査したところ、肥満の人はやせている人よりもファーミキューテス類が多く、バクテロイデス類が少ないことがわかったのです。

 また、肥満の人を食事制限によって減量させたところ、ファーミキューテス類の腸内細菌が減少し、バクテロイデス類の腸内細菌が増加したことがわかったのです。

 この研究チームは、この結果を裏づけるために、マウスを使った動物実験も行いました。遺伝的な肥満症のマウスの糞便を無菌動物に与えると、そのマウスの総脂肪量が増えたのです。

 さらに、肥満マウスの糞便を与えられた無菌マウスでは47%が肥満になったのに対し、やせたマウスの糞便を与えた無菌マウスでは、27%しか肥満にならなかったというのです。つまり、両者の間には、1.75倍もの差が生じ、特定の腸内細菌が肥満に関与していることが判明したのです。

 この研究チームは、ファーミキューテス類の細菌が増加し、バクテロイデス類の細菌が減少すると、食事からのエネルギー回収率が高くなる、と推測しています。同じ食事を摂っても、エネルギー回収率が高い腸内細菌、ファーミキューテス類をバクテロイデス類よりも多く持つ人のほうが肥満を促進する、というわけです。

 つまり、肥満型の腸内細菌がファーミキューテス類、やせ型の腸内細菌がバクテロイデス類と規定されています。このため、腸内細菌のバランスを肥満型、やせ型、ビフィズス菌、その他の菌で表すのですが、肥満型がファーミキューテス類、やせ型がバクテロイデス類を指します。

 大食いなのにやせている。普通の人と同じ食事を摂ると太ってしまう。このような人がめずらしくないのは、前者はバクテロイデス類がファーミキューテス類よりも多く、後者はファーミキューテス類がバクテロイデス類よりも多いということなのかもしれません。

 ただし、次世代型シークエンサー(塩基配列決定装置)を利用して腸内細菌を解析すると、いわゆる未知の腸内細菌は無視されます。というのも、内蔵されている腸内細菌データベースには、これらのデータが内蔵されていないからです。

 さらに、ファーミキューテス類やバクテロイデス類というのは、極めて多様な腸内細菌を包括する表現に過ぎません。腸内細菌学や微生物系統分類学を研究領域としている私は"容認しがたい菌群"であると理解しております。したがって、この視点からは確実な腸内細菌(種)にまでたどり着くのは難しいのではないか、と思っています。

 肥満が腸内細菌によって左右されるのだとしたら、近い将来、魔法のようなやせる薬が誕生し、生活習慣病の予防に大きく貢献することは間違いありません。そうなれば、完全に腸をダマすことができるようになります。

 まだ研究の段階ではありますが、私は数年前、体重が268キロもある日本人の肥満男性から提供されたウンチに、未知の腸内細菌が棲息するのを発見しました。肥満と関係があるかもしれない菌で、新種として提案する予定です。この腸内細菌の性質を解明することによって、肥満について新たな発見ができるのではないかとワクワクしています。






腸をダマせば身体はよくなる
辨野義己 著



【著者】辨野 義己(べんの よしみ)
1948年大阪府生まれ。独立行政法人 理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室長。 農学博士。DNA解析により腸内細菌を多数発見。腸内細菌と病気との関係を広く調べ、ビフィズス菌・乳酸菌の健康効果を広く訴えている。「うんち博士」としても、テレビ・雑誌等マスコミに登場。ヤクルト、協同乳業、ビオフェルミン、フジッコ、森永乳業、東亜薬品工業など7社出資で、理化学研究所内に辨野義己特別研究室を開設。著書に『大便通』(幻冬舎)、『見た目の若さは腸年齢で決まる』(PHP)、『腸をダマせば身体はよくなる』(SB新書)などがある。



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