カルチャー
2014年8月21日
知らないと損する年金リテラシー
~女性が気をつけるべき「離婚分割」
~女性が気をつけるべき「離婚分割」
[連載]
知らないと損する年金リテラシー【4】
監修・浜田裕也
離婚分割で一体いくらもらえるの?
ここから「離婚分割で一体いくらもらえるの?」というお話をしていきますが、その前に離婚分割で知っておきたい注意点を以下に挙げておきます。
・離婚分割の対象になるのは、原則として婚姻した時から離婚した時までの期間
・分割できる年金は「厚生年金」および「共済年金」のみ
・国民年金は分割されない
・按分割合は最大で0.5(50%)
ちょっと難しい話になってしまいますが、離婚分割における年金の計算は婚姻期間中の月給(本当は標準報酬月額を用います)とボーナス(本当は標準賞与額を用います)を現在価値に計算し直し、その合計を按分割合で分けるという方法をとります。
今回は皆さんに大まかなイメージを持っていただこうと思っていますので、事例の計算はかなり簡略化しています。予めご了承ください。
事例A――婚姻期間が長く、妻はずっと専業主婦だった。離婚分割で一体いくらもらえるの?
・夫 会社員 月額50万円
(今までの年収を平均化し、月額ベースに直したものとします)
・妻 専業主婦
・婚姻期間 35年
・按分割合 0.5
結論からいいますと、離婚分割によって妻は年間約60万円、月額にすると約5万円の年金を将来受け取ることができます。「思ったより少ないな...」と感じられた方も多いかもしれませんね。
専業主婦の年金は65歳から月額6~7万円になることが多いので、分割した年金を合わせても月額約11万円~12万円にしかならないことになります。
離婚後は原則として夫からの収入は見込めませんから、妻の収入が年金だけの場合、老後の生活はかなり厳しいものになることが予想されます。
(離婚分割の大まかな計算方法)
標準報酬総額は50万円×35年×12カ月=21,000万円。
按分割合は0.5なので、21,000万円×0.5=10,500万円が妻の持分になる。
離婚分割により10,500万円×5.769/1000×1.031×0.961≒年額60万円(平成26年度価格)が将来妻に支給される。
事例B――婚姻期間が短く、夫婦共働き(妻も厚生年金加入)。離婚分割で一体いくらもらえるの?
・夫 会社員 月額30万円
(今までの年収を平均化し、月額ベースに直したものとします)
・妻 会社員 月額18万円(同上)
・婚姻期間 5年
・按分割合 0.5
このケースの場合、離婚分割によって妻は年額約2万円、月額にすると約1,700円の年金を将来受取ることができます。「びっくりするくらい少ないじゃないか!」と感じる方がほとんどだと思います。
離婚分割してももらえる金額が少ない理由は、婚姻期間が短いこと、夫婦共働き(妻も厚生年金加入)であることが原因だからです。
少し難しいお話になってしまいますが、夫婦共働きの場合、まず夫婦それぞれの標準報酬月額と標準賞与額(今回は月給としています)を現在価値に計算し直し、夫婦の合計を出します。その後、その合計を按分割合で分けるのです。
大まかに言ってしまえば「夫婦の今までの稼ぎを合計し、それを按分割合で分ける」ということです。妻の収入は無視して夫の分だけで分割してください、というわけにはいきません。
以上のことから、妻が厚生年金に加入していると思ったより夫から年金が分割できない、という事態に陥ってしまうのです。もっと言ってしまうと、妻の方が年収が高い場合、分割によって夫に年金を持っていかれてしまう、ということも十分あり得るのです。
(離婚分割の大まかな計算方法)
夫の標準報酬総額は30万円×5年×12カ月=1,800万円。
妻の標準報酬総額は18万円×5年×12カ月=1,080万円。
夫婦合計の標準報酬総額は2,880万円。
按分割合は0.5なので、2,880万円×0.5=1,440万円が妻の持分になるが、妻には1,080万円の標準報酬総額があるので、1,440万円-1,080万円=360万円が分割後の妻の取り分となる。
よって、離婚分割により360万円×5.769/1000×1.031×0.961≒年額2万円(平成26年度価格)が将来妻に支給される。
離婚分割をすれば独り身になっても将来生活出来るくらいの年金はもらえるだろう、と思っている方も多いかもしれません。しかし、実際には離婚をした後の妻の収入は厳しくなってしまうのが一般的です。離婚分割に限ったことではありませんが知識は持っていても損はしません。早いうちに現実を知り、将来の見通しを立てておくことが必要でしょう。
(第4回・了)
[連載]知らないと損する年金リテラシー 記事一覧
[1]知らないと損する年金リテラシー~会社員からフリーランスになった際に必要な年金の切り替えとは?
[2]知らないと損する年金リテラシー~誰も教えてくれない年金の常識と保険料納付の節約術
[3]知らないと損する年金リテラシー~低年金者の実態と生活保護
[4]知らないと損する年金リテラシー~女性が気をつけるべき「離婚分割」
[5]知らないと損する年金リテラシー~女性が気をつけるべき「遺族年金」
[6]知らないと損する年金リテラシー~共働きの場合の「遺族年金」はどうなる?
[7]知らないと損する年金リテラシー~パート主婦は厚生年金に入ったほうがいい?
[8]知らないと損する年金リテラシー~意外と知られていない「保険料免除」と「追納」
[9]知らないと損する年金リテラシー~将来もらえる国民年金は生活保護より少ない?
[10]知らないと損する年金リテラシー~年金を上乗せできる「加給年金」の申請方法
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【監修】浜田裕也
学習院大学理学部数学科卒。大学卒業後、塾講師(対象の生徒は小・中学生。数学と理科を担当)を経てファイナンシャルプランナー(CFP)へ転身。ファイナンシャルプランナーとして活動を続ける中、社会保障、特に年金制度に興味を持ち始め社会保険労務士の資格も取得。その後、社会保険労務士会の業務委託で年金事務所にて年金に関する相談も受けるようになり、相談件数は年間1,000件を超える。複雑な年金制度の解説や具体的な申請手続きの進め方のアドバイスには定評がある。老後の生活設計や将来の年金額のシミュレーションなどの記事が「週刊東洋経済」や「プレジデン」トなどに掲載されるほか、監修として『日本でいちばん簡単な年金の本』(洋泉社 第3章監修)、『転職したり、フリーランスだったり、離婚を経験した人は知らないと損する、年金の話』(SB新書)などがある。
学習院大学理学部数学科卒。大学卒業後、塾講師(対象の生徒は小・中学生。数学と理科を担当)を経てファイナンシャルプランナー(CFP)へ転身。ファイナンシャルプランナーとして活動を続ける中、社会保障、特に年金制度に興味を持ち始め社会保険労務士の資格も取得。その後、社会保険労務士会の業務委託で年金事務所にて年金に関する相談も受けるようになり、相談件数は年間1,000件を超える。複雑な年金制度の解説や具体的な申請手続きの進め方のアドバイスには定評がある。老後の生活設計や将来の年金額のシミュレーションなどの記事が「週刊東洋経済」や「プレジデン」トなどに掲載されるほか、監修として『日本でいちばん簡単な年金の本』(洋泉社 第3章監修)、『転職したり、フリーランスだったり、離婚を経験した人は知らないと損する、年金の話』(SB新書)などがある。