カルチャー
2014年9月4日
五輪建設バブルのピークは2018年!
[連載]
不動産を買うなら五輪の後にしなさい【2】
文・萩原 岳
なぜ五輪後にマイホームの値段は下がるのか?
マイホームの買い時、価格を左右する要素の「象徴」も実は五輪です。現在、マイホームの値段を上げている要素は、
1)東日本大震災による復興需要
2)日銀の量的質的金融緩和(アベノミクスその1)
3)公共事業投資の積み増し(アベノミクスその2)
4)建設労働市場の人手不足
5)五輪需要
の5つで構成されています。
このうち、半ば恒常的な現象は人手不足だけ。その人手不足も、公共事業削減やデフレで建設市場が縮んできた中で、建設労働・資材市場のミスマッチが起きて生じた現象。仮に今後、金融緩和、復興需要、政府の積極的な建設投資がなくなったり、色あせたりすれば、「人手不足」も緩和、解消されていきます。
巷では「円安・輸入物価上昇→建設資材の高騰、人件費の高騰→それによる不動産価格の値上がり」という図式を示し、建設費や都心の地価、それにマイホームはずっと値上りし続けるという論調も幅を利かせています。しかし、そこにはいくつかの落とし穴があります。まず、マイホームなど不動産の市況、取引は需要と供給がつくるものなので、新築が値上がりすれば、中古分譲や賃貸市場に需要が流れます。
値上がりの理由が、景気回復や人口増加といった「よい値上がり理由」ならば、「買い」にも根拠があります。しかし、値上がりの要因が、一時的な復興需要、建設労働市場の不均衡、金融・財政政策、イベント(五輪)により底上げされているものなら、いつかその効果は剥落し、一時的なバブル的な要因で上がった価格は、値下がりすることで「調整」される運命にあります。
人口減少、少子・高齢化、空き家の急増と宅地の余剰、財政難、企業の海外進出などは、住宅需要を減らす「構造的要因」で、それらが緩和される見通しはつきません。人口減少で、現役世代の生産年齢人口が減っています。人手不足から賃金が多少増えても、高齢者や財政赤字は増えて、現役世代の税や社会保障の負担は増えますから、手取り(実質賃金)は低迷し、それがまた住宅需要を冷やします。
現に、消費税増税がなされた4月以降、可処分所得や消費支出の統計はパッとしません。今春以降の住宅着工や販売の数字もよくありません。
不動産経済研究所によると、今年6月までの首都圏のマンション販売は、消費税値上り前の駆け込み需要があったのに前年同期を約2割下回る19,394戸。前年同期比2割減に落ち込み、2000年の実績の半分以下に低迷。同研究所の予測では今年の年間販売数は56,000戸ですが、上期の大失速を受けて、民間からは年間予測は「40,000戸~45,000戸」「4万戸割れ」の声も出ています。
2018年がピークである根拠 ~2019年からの建設不況に皆備えている
やはり「不動産を買うなら輪の後にしなさい」は大原則なのです。場合によっては、建設不況は五輪前に来ます。ロンドン五輪の場合も、建設・不動産関連の五輪景気の「変調」が見られたのは、開催前の前年、前々年からという指摘もあります。2020年の東京五輪についても、建設会社の受注のピークは2018年になりそうです。
この8月は、金融緩和などアベノミクス効果を早くから織り込み過ぎた不動産株がパッとしない一方で、値上がりの動きに出遅れていたゼネコン株に買いが入りました。安藤ハンザが上場来高値、清水建設、大成建設が年初来高値といった具合ですが、数年先の業績まで織り込んだ高値ではありません。
建設会社の関係者によれば、「資材はここ2年で2割は上がっている。住宅着工や販売が落ちているが、その影響はわからない」「建物の躯体を作る職人の日当は2倍にもなった。鉄筋、型枠など躯体系の技能者がまだまだ足りない」といった話はイヤというほど聞こえてきます。
しかし、考えてもみてください。五輪までには、あと6年もあります。バブル崩壊後を振り返ると、地価や建築費、住宅価格、オフィス賃料など不動産市況が5年、あるいは数年間、ずっと上がり続けたことはありません。このまま五輪まで景気が続く保証はありません。
現在、人手不足が深刻と言われる技能労働者数は340万人余りと見られ、ピーク時の1997年の455万人から25%程減少。小泉政権時代の公共投資削減で建設労働者がタクシー業界に流れて減った後はコンビニなどにも流れました。しかし、今年は建設市場の人手不足と給与など待遇改善から、建設労働者は目に見えて増えることが予測されています。
ゼネコンは今や久しぶりに受注をこなせないほど抱え込み、安値の契約を回避する余裕ができました。しかし、ピークは2018年と見ているため、「2019年以降の落ち込みをどうするか」が課題です。五輪会場やホテルなど関連施設は、2019年には完成しており、「試運転」に入るためです。
ゼネコンは五輪後の不況、いや2019年からの来るべき「建設不況」に備えて、なるべく受注を先延ばしし、顧客を長期にわたって確保しておく作戦に腐心しています。
東日本大震災以前をみても、過去にも大規模な補正予算、阪神大震災、ミニバブルなどによって景気や不動産の相場が一時的に踊ったことはありますが、潜在成長力の鈍化、政府債務の膨張といった日本を取り巻く構造問題は深刻になるばかり。ですから、五輪まで景気が拡張するケースを想定するより、どこかで一度は調整が入るというシナリオを考えておいた方がよいでしょう。
マイホームも買う場合も同じです。地価や建設費がこのまま上がり続けるシナリオを信じることはありません。1992年に崩壊が始まった土地バブルは80年後半から7~8年、 08年に崩壊したミニバブルは2~3年程度しか続きませんでした。すでに東京の不動産市況が回復局面に入ってから2年超が経過しています。五輪バブルがあと6年近くも続くのか――。マイホームの買い時を逃さず急がなければ、などということは全然なく、何も慌てる必要はないのです。
(了)
萩原 岳(はぎわら がく)
千葉県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。株式会社アプレ不動産鑑定 代表取締役。不動産鑑定士。在学中より不動産鑑定業界に携わり、2007年不動産鑑定士論文試験合格、2010年不動産鑑定士として登録する。数社の不動産鑑定士事務所勤務を経て、2014年株式会社アプレ不動産鑑定を設立し、現職。相続税申告時の不動産評価など税務鑑定を専門とし、適正な評価額の実現を掲げ、相続人と共に「戦う不動産鑑定士」として活動する。また、実務で培った経験をもとに、「相続と不動産」について税理士、弁護士、不動産鑑定士など相続の実務家を相手とした講演活動も行っている。
千葉県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。株式会社アプレ不動産鑑定 代表取締役。不動産鑑定士。在学中より不動産鑑定業界に携わり、2007年不動産鑑定士論文試験合格、2010年不動産鑑定士として登録する。数社の不動産鑑定士事務所勤務を経て、2014年株式会社アプレ不動産鑑定を設立し、現職。相続税申告時の不動産評価など税務鑑定を専門とし、適正な評価額の実現を掲げ、相続人と共に「戦う不動産鑑定士」として活動する。また、実務で培った経験をもとに、「相続と不動産」について税理士、弁護士、不動産鑑定士など相続の実務家を相手とした講演活動も行っている。