ビジネス
2014年9月17日
今、大ブーム! 劣等感を力に変える「アドラー心理学」に学べ
[連載]
アドラー 一歩踏み出す勇気【1】
文・中野 明
劣等感に注目したアドラー
アドラー心理学の生みの親であるアルフレッド・アドラーに対する注目が高まっています。
アドラーは1870年、和暦で言えば明治3年にオーストリア=ハンガリー帝国で生まれました。のちにアメリカへ移住し、1937(昭和12)年に心臓発作で急逝します。
アドラー心理学の特徴は「劣等感」に大いに着目した点です。
そもそも人類は徒党を組みますが、これは他の動物に比較して体力的に劣るため、自分の生命を守るためにそのようにしたのだとアドラーは考えました。
つまり肉体的劣等性に起因する劣等感が、人類に徒党を組ませる、言い換えると共同体を形成させる原動力になった、とアドラーは言うわけです。
また、他人と仲間になるにはコミュニケーションが欠かせません。加えて、共同体を維持するのにもコミュニケーションが不可欠です。
こうして人類はコミュニケーション・ツールとしての言語を開発しました。ですから、言語も人間の劣等性に起因する、言い換えると劣等感を補償するために作られたものと言えるわけです。
それから、いつかは死ぬことを悟った人類は、「永遠」に対立する「死」から派生する劣等感を補償するために、宗教や哲学を生みます。音楽や芸術といった美を追求する活動も、不完全な人間存在に対する補償活動と考えることもできるでしょう。
さらに、人間の共同生活によって成立する共同体は、やがてその規模が大きくなります。現代の我々はこの共同体のことを社会と呼んでいます。
よって、この社会自体も人間の劣等感が作り出した産物(!)ということになります。
劣等感パワーの向かう方向
このようにアドラーは、人間のあらゆる営みの背景に劣等感が横たわっていると考えました。実際アドラーは「人間であることは劣等感を持つことである」と述べたほどです。
だからアドラー心理学は「劣等感の心理学」とも呼ばれるわけです。
ただ、人間活動の原動力とも言えるこの劣等感が持つ強力なパワーを、我々は正の方向ではなく負の方向に向ける場合がよくあります。
たとえば、腕力に自信がない人が集団を組んで暴力行為を働くのは、劣等感が負の方向に働いた典型です。あるいは他人から重要人物と見られたい人は、大きな借金をしてでも高級な自動車に乗るかもしれません。これも劣等感が負の方向に働いた典型です。
では、劣等感のパワーを注入すべき正の方向とは──?
答えはとても簡単です。社会の貢献に資すること、これが正の方向にほかなりません。一方、負の方向の活動は、一例に挙げた暴力行為やロビーの闊歩のように、自分の利益には貢献するかもしれませんが、世の中には何も貢献しません。
そもそも我々が何かしらの報酬を得ようとしたとき、相手のためになることが先決になります。人のためになること、これは社会に貢献することにほかなりません。
こうしたシンプルな事実を忘れて、しばし我々は自分の利益ばかり考えた行動をとるものです。これだと社会との間に摩擦が生じるのは必至です。
アドラー心理学が採用する一般手順
アドラーは、人が持つ人生の目標やそれを達成するための態度をひっくるめてライフスタイルと呼びました。このライフスタイルが負の方向に向かっていると、何かしら社会との摩擦が起こるでしょう。
アドラー心理学では、そのような人とまずは良好な関係を取り持ち、その人が持つライフスタイルについてじっくり考えます。そしてその人がもつ目標や態度が適切でないことを理解するよう促し、その上で適切なライフスタイル構築への方向づけをする──。
これがアドラー心理学に適用される基本的な手法になります。箇条書きで書くとこんな感じです。
(1)関係......相手と「よい関係」を構築する
(2)目標......相手が持つ間違った目標や態度を見つける
(3)洞察......間違った目標や態度を相手が理解するよう促す
(4)再方向づけ......適切な目標を見つけられるよう手伝う
このように、困っている人(相手)とともに適切な道筋を一緒に見つけ出し、その方向に一歩踏み出せるよう背中を押してあげる。これがアドラー心理学の本質です。
そのためアドラー心理学は「劣等感の心理学」のみならず「勇気づけの心理学」さらには「勇気の心理学」とも言われる由縁です。
(第1回・了)
【著者】中野 明(なかの あきら)
1962年滋賀県生まれ。作家。立命館大学文学部哲学科卒。同志社大学非常勤講師。ビジネス、情報通信、歴史の3分野で精力的に執筆活動を展開。著書に『超図解 勇気の心理学 アルフレッド・アドラーが1時間でわかる本』(学研パブリッシング)、『ポケット図解 ピーター・ドラッカーの「自己実現論」がわかる本』(秀和システム)、『今日から即使える!ドラッカーのマネジメント思考』(朝日新聞出版社)、『悩める人の戦略的人生論』(祥伝社新書)など多数ある。近著は『アドラー 一歩踏み出す勇気』(SB新書)。