カルチャー
2014年9月18日
こっそり公開! 不動産セールストークのカラクリ
[連載]
不動産を買うなら五輪の後にしなさい【4】
文・萩原 岳
頭金0円で家が買えます?
購入意欲を刺激する常套句として、「頭金0円で家が買えます」というセールストークがあります。
一昔前は物件価格の8割程度しか融資が受けられませんでしたが、今は物件価格の全額融資が可能です。それどころか、数年前のファンドバブル期には、物件価格とは別にかかる 諸費用(登記費用や融資手数料など)まで含めたローン(120%ローンなども実在した)が可能な物件までありました。最近はそこまでオーバーローンの話も聞かなくなりましたが、それでも頭金がなくてもマイホームを購入することは可能です。
そもそも頭金とは何かというと、代金の前払い金を意味します。頭金がないからといって物件の価値が下がるわけではありません。「低金利の今のうちに全額ローンを組みたい」という意見もありますが、個人的にはおすすめしません。頭金0円購入の留意点は、(1)借入れ総額の増大(利息の増大)と(2)「担保価値」の2つです。
まず、「(1)借入れ総額の増大(利息の増大)」です。先に現金で払うため、当然ながら借入れ金額は頭金の分だけ少なくなります。物件価格4500万円で頭金を20%の900万円入れたら、借入れの元本は3600万円ですね。元本だけみると、差額の900万円を先に払うか後で小分けにして払うかの違いですが、問題なのは利息がかかるということです。 頭金0円と20%の900万円を差し入れた場合の借入れ総額を比較してみましょう。
●想定条件
物件価格4500万円
金利3%
返済期間25年
この場合、借入れ総額は約6400万円と算出されます。
次に、借入金額を3600万円(頭金900万円分を引いた額)と入力すると、借入れ総額は約5100万円となりました。
それぞれ借入れ総額から元本価格を引いて利息分を出しましょう。
・頭金0円の場合の利息分
6400万円-4500万円 = 1900万円
・頭金900万円(物件価格の20%)の場合の利息分
5100万円-3600万円 = 1500万円
利息分の差額は400万円(1900万円-1500万円)です。つまり、頭金を900万円用意すると、利息分の400万円が浮く計算になります。これを投資と考えると、元手資金900万円で400万円の収益ですから、単純に言えばほぼノーリスクで44%のリターンになります。
次は(2)「担保価値」です。担保割れ、すなわちローン残債より物件の担保価値が低い状態になると、容易に借り換えや売却ができなくなります。「うちは担保割れなんかしないよ」とタカをくくっている方も多いでしょうが、担保割れをしている物件はとても多く、特に新築物件は顕著です。大分世に知られてきたのでご存知の方も多いと思いますが、新築物件は一度人が住むとその瞬間から価値が1~2割下がります。これは、新築価格には分譲会社の経費(人件費や広告宣伝費)が上乗せされていること、一度でも人が住むと市場では「新築」ではなく「中古」として扱われることが理由としてあげられます。そのため、フルローンで購入すると、新築物件は買ったそばから担保割れ物件になってしまいます。担保割れを防ぎ、物件の流動性を確保するためにも頭金は2~3割程度用意しておいたほうが妥当でしょう。
よく「不動産は出会いだ」と言われますが、住宅は常に供給があるので、「今しか買えない」ということはありません。「このエリアでこのお値段は今だけ」と言われても、その物件と出会ったのと同じ確率で同程度の物件は見つかるものです。頭金がないのに慌てて買うよりも、家計を見直しながら貯金を続け、同時並行で不動産のことを勉強し、物件の情報を集め、「よし、返せる見通しがついた」と自信がついてからマイホームを買いましょう。
(第4回・了)
萩原 岳(はぎわら がく)
千葉県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。株式会社アプレ不動産鑑定 代表取締役。不動産鑑定士。在学中より不動産鑑定業界に携わり、2007年不動産鑑定士論文試験合格、2010年不動産鑑定士として登録する。数社の不動産鑑定士事務所勤務を経て、2014年株式会社アプレ不動産鑑定を設立し、現職。相続税申告時の不動産評価など税務鑑定を専門とし、適正な評価額の実現を掲げ、相続人と共に「戦う不動産鑑定士」として活動する。また、実務で培った経験をもとに、「相続と不動産」について税理士、弁護士、不動産鑑定士など相続の実務家を相手とした講演活動も行っている。
千葉県生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。株式会社アプレ不動産鑑定 代表取締役。不動産鑑定士。在学中より不動産鑑定業界に携わり、2007年不動産鑑定士論文試験合格、2010年不動産鑑定士として登録する。数社の不動産鑑定士事務所勤務を経て、2014年株式会社アプレ不動産鑑定を設立し、現職。相続税申告時の不動産評価など税務鑑定を専門とし、適正な評価額の実現を掲げ、相続人と共に「戦う不動産鑑定士」として活動する。また、実務で培った経験をもとに、「相続と不動産」について税理士、弁護士、不動産鑑定士など相続の実務家を相手とした講演活動も行っている。