カルチャー
2014年9月24日
なぜブルーインパルスは、とてつもない曲技飛行ができるのか?
文と写真・赤塚 聡
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高度な技量とチームワークが不可欠


 ブルーインパルスの展示飛行は、6機のT-4ジェット練習機によって行われます。使用機のT-4は、1980年代に機体からエンジンまでのすべてを国内で新規に開発した純国産の双発ジェット練習機で、軽快な運動性と良好な操縦性を有しています。

 展示飛行は、6機すべてが揃ったフォーメーション(編隊)による課目のほか、編隊長の1番機率いる4機の編隊と、第1単独機の5番機率いる2機の単独機(デュアル・ソロ)による課目によって構成されています。

 それぞれの課目は、ロール(横転)やループ(宙返り)といったベーシックな曲技を密集した隊形を維持しながら実施するもので、各種の機動を絶妙に組み合わせたり、隊形などにアレンジを加えたりすることで、実に50種類を超えるバリエーションにまで発展させています。

 ループやロールといった大胆な機動を伴う課目が実施されるなか、ウイングマン(僚機)はリーダー(編隊長機)に対して常に決められたポジションを正確に維持しています。それは、まるで各機が相互に見えないワイヤーで結ばれているかのような錯覚に陥るほど安定しています。

 これは僚機のパイロットが、編隊の基準となる機体に対して、正確な位置を把握するために機体の各部に設けられた複数の参照点を交互に素早くクロスチェックして、少しでも位置に狂いが生じた際は、適切な修正操作を常に行っているからです。

密集した隊形の機体間の最小距離はわずか90cm程しかない。最後方に位置する4番機から超広角の魚眼レンズを使用しても、全機がフレームに収まりきらないほど近い ※クリックすると拡大

 特にブルーインパルスが実施するような密集した隊形において、修正操作の遅れは隊形の乱れだけではなく、空中接触という事態にも繋がりかねないので、パイロットは機動中に発生する何倍もの重力加速度(G)に耐えながら、ひたすらに両手両足を駆使して、操縦桿とラダーペダル、そして推力を調整するスロットル・レバーを操作し続けています。

 航空機に限らず乗り物の操縦とは、乗り手の意思のもとに入力されて発生した機体運動のレートや量を感知して、適切な修正操作を加えていくというクローズド・ループによって成立しています。

 ブルーインパルスのパイロットたちはこのループの速度が極めて速く、機体が意図しない動きを見せるや否や、すぐに察知して修正を加えていきます。また最初の入力自体も極めて適切なのは言うまでもありません。

 これは一朝一夕で身に付く技術ではなく、厳しい訓練を日常的に積み重ねることで初めて到達可能な、まさに職人技の領域なのです。

 編隊飛行を実施中、僚機のパイロットはほとんど前方を見ることがありません。編隊長に対して全幅の信頼を寄せているため、隊形の維持に全神経を集中させることができるのです。また編隊長も全般の状況を判断して安全かつ確実に課目を実施するほか、僚機が追随できないような大きな操作は行わないようにしています。

 こうした強固なチームワークが、華麗なブルーインパルスの展示飛行を支えているのです。



ブルーインパルスの科学
知られざる編隊曲技飛行の秘密
赤塚 聡 著



【著者】赤塚 聡(あかつか さとし)
1966年、岐阜県生まれ。航空自衛隊の第7航空団(百里基地)でF-15Jイーグル戦闘機のパイロットとして勤務。現在は航空カメラマンとして航空専門誌などを中心に作品を発表するほか、執筆活動やDVDソフトの監修なども行っている。またブルーインパルスには定期的に同乗して空撮取材を実施している。日本写真家協会(JPS)会員。おもな著書は『ドッグファイトの科学』(サイエンス・アイ新書)、『T-4 Blue Impulse写真集』(TIPP)。
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