スキルアップ
2014年9月25日
漫画『カイジ』から学ぶ「情報戦で勝ち抜く極意」
[連載] ゲーム理論で身につける、勝つための駆け引きの極意【2】
文・安部徹也
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 「ゲーム理論」は、おもに企業間の戦略に使われてきましたが、最近ではビジネスの現場でも広く応用されるようになってきています。いまや、ビジネスでの駆け引きでうまく勝つためには必須の理論ともいえるでしょう。このゲーム理論について、メガバンクの銀行員・黒田を主人公としたストーリー形式でわかりやすく解説したSB新書『「やられたら、やりかえす」は、なぜ最強の戦略なのか』(安部徹也 著)の刊行を記念し、ゲーム理論をもっと身近に感じていただくために、人気漫画『カイジ』を例に全4回の連載で「ゲーム理論」について紹介します。

 前回は、ゲーム理論をベースに「絶体絶命のピンチに陥らないための極意」をお伝えしましたが、第2回目の今回は「情報を利用して勝ち抜くための極意」についてお伝えしていくことにしましょう。

絶体絶命のピンチから光明を見い出したカイジ


 借金を帳消しにするために豪華客船での一夜限りのギャンブルに挑んだカイジでしたが、リピーターの船井に騙され2連敗を喫し、カード1枚、星1個という絶体絶命のピンチに陥ります。

 最低でも強制労働による借金返済という地獄から抜け出すためには限定じゃんけんの勝負に勝ち、星3つにしなければいけません。ただ、残すカードが1枚のカイジにはもはや絶望的......そんな絶望の淵で頭を抱えていたカイジの視界に一人の男が飛び込んできます。

 その男は古畑......カイジが借金地獄に陥った原因を作った張本人。

 カイジは古畑の背中を追いかけてトイレに入ると、そこで座り込み途方に暮れる古畑を見つけます。 古畑もまたカードは4枚残っているものの星は一つで絶望の淵に立たされていたのです。

 カイジは多くの敗者濃厚の者が嘆くトイレから古畑を連れ出すと、ギャンブル開始前に主催者から借りたお金で星が買える可能性を訴え、あきらめずに協力して戦おうと古畑に呼びかけます。

 またカイジは、二人で合わせてカード5枚、星2つ、借入で手にした現金1千2百万円では心許ないため、安心して勝負するために星2つ残すもののカードがゼロになった人物を仲間にすることを提案。条件に適った安藤という男を仲間に引き入れます。

 ところが、安藤は仲間に加わった早々、古畑をうまく言いくるめてカードを1枚手にすると二人がトイレに行っている隙に勝手に勝負をしようと相手を探し始めます。勝てば一人だけで船から抜け出そうと抜け駆けに走ったのです。

 トイレで古畑の手持ちカードが減っていることで安藤の企みに気付いたカイジたちは急いで会場に戻り、勝負をしようしていた安藤を止めに入ります。ところが、時すでに遅し......安藤はカードをめくって勝負に出てしまったのです。

 結果は......相手がチョキに対して、安藤はパー。安心して勝負するために貴重な星が1個失われてしまった瞬間でした。

 勝負を終えてカイジと古畑の前で言い訳する安藤に、古畑は「縁を切ろう」とカイジに怒りをぶつけますが、カイジは安藤を許し、あくまでも三人で船から降りると宣言します。

 ただ、三人合わせてカードがチョキ4枚、星3つ、現金1千4百万円と勝ち残るには更に厳しい状況になってしまったのです。 特に手持ちのカードが全てチョキでは3人に選択肢はありません。安藤は古畑になぜこんな極端な残し方をしたのかと嘆きますが、そのひとことでカイジにある考えが閃きます。

 「通常であれば、最後までカードの選択肢を確保しておくためにバランスよくカードを使うのでは?」という仮説(「バランス理論」)が頭に浮かんだのです。

 たとえば、カードを6枚残している者がいれば、それはグー2枚、チョキ2枚、パー2枚である可能性が高いということです。

 そこでカイジは古畑と安藤に手持ちのカードが9枚で、その後グーとチョキを出して7枚になった男を探すよう指示。程なくして条件を満たした一人の男が見つかります。

 確かに理論上はその男が次にパーを出す確率は高いといえますが、決して100%出すとは限りません。「バランス理論」に基づいて行動していなければ、グーを出すことも十分考えられるのです。星が残すところ1個と後のないカイジは決死の覚悟で勝負を挑み、カードをセットします。

 果たして、結果は......相手は読み通りにパーを出し、カイジは九死に一生を得たのです。

 勝負に負けて捨て台詞を残し立ち去ろうとする男にカイジは続け様もう一戦しようと持ち掛けます。

 ただ、理論のうえからは先ほどのパーでバランスがリセットされたために次に何のカードが来るかは本人以外に確実に当てることはできない状況です。運任せのギャンブルに古畑はカイジに再考を促しますが、カイジは構わず第2戦に挑みます。

 相手も2戦連続の負けはないと自信を持って繰り出したカードはグー......カイジの連勝はならず、相手はカイジから勢いよく星を奪い取ると、したり顔に。古畑に慰められながら肩を落とし立ち去ろうとするカイジを見つめながら、その男の脳裏にある考えが浮かび上がります。「ここまで2戦連続でチョキを出し続けてきた奴に次はチョキはあり得ない。パーを出せば少なくとも負けはない」と閃いたのです。

 それは、カイジにとっては相手が術中にはまった瞬間でした。

 そう、前回の敗戦は相手を罠で仕留めるための"撒き餌"に過ぎなかったのです。相手はバランス思考の持ち主であり、その理論に基づけば「限られたカードの中でチョキが続くことはあり得ない。次は必ずグー、もしくはパーが出るはずだ」、と考えるに違いないと読んでいたのです。

 そして、カイジは自分の思惑が悟られないよう演技をしながらしぶしぶテーブルに着くと、カードをセットします。勝負の行方は、相手がパーで、カイジはチョキ......男はまさか続くことはないと踏んでいたチョキで星を奪われてしまったのです。

 ここで終われないのがギャンブルの怖さ。

 「ここまでチョキが続けば、次こそは絶対にチョキはあり得ない。パーを出せば星を取り返せるかもしれないし、少なくとも負けはない」と男は熱くなり、カイジに自ら最終決戦を持ち掛けたのです。

 二人の最後の戦いも、男のパーに対して、カイジのチョキ......男は自分の思考の罠から抜け出せずに、連敗。策士ゆえに策に溺れてしまったのです。






「やられたら、やり返す」は、なぜ最強の戦略なのか
ゲーム理論で読み解く“駆け引き”の極意
安部徹也 著



【著者】安部徹也(あべ てつや)
株式会社MBA Solution代表取締役。1990年九州大学経済学部を卒業後、現三井住友銀行入行。退職後、インターナショナルビジネス分野で全米No.1のビジネススクールThunderbirdにてMBAを取得し、経営コンサルティング及びビジネス教育を主業とする株式会社MBA Solutionを設立。代表に就任し、現在に至る。2003年から主宰する『ビジネスパーソン最強化プロジェクト』では2万6千人以上のビジネスパーソンが参加しMBA理論を学んでいる。主な著書に『最強の「ビジネス理論」集中講義』(日本実業出版社)、『超入門コトラーの「マーケティング・マネジメント」』(かんき出版)などがある。『ワールド・ビジネス・サテライト』(テレビ東京)を始めとした多くのニュース番組出演を始め、日本経済新聞、週刊ダイヤモンドなどのビジネス系メディアにも登場多数。現在は、一般社団法人日本MBA協会の代表理事としても、一人でも多くのビジネスパーソンにMBA理論を普及させるべく日々奔走している。近著は『「やられたら、やり返す」は、なぜ最強の戦略なのか』(SBクリエイティブ)
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