ビジネス
2014年9月30日
心理学の巨人アドラーと経営学の巨人ドラッカーの意外な共通点!
[連載]
アドラー 一歩踏み出す勇気【3】
文・中野 明
ドラッカーの「目標管理」とアドラーの関係
またドラッカーは、組織のみならず組織に所属するメンバーについても目標の重要性を説きました。
自己啓発書の古典『経営者の条件』の中でドラッカーは、「目標と管理の自己マネジメント」いわゆる「目標管理」という考え方を提唱しています。
目標管理では組織に属する人が、組織の目的を理解し、組織がその目的を達成するために、自分自身が何に対して、どれくらいの貢献をするのかを明らかにします。これがそれぞれの人にとっての目標になります。
そしてこの目標をどの程度達成したのかを定期的に検証して、それを次の行動にフィードバックします。これがドラッカーの説く目標管理です。
人が成果を上げるには、目標管理が欠かせないと、ドラッカーは常々言っていたものです。
ここで注意したいのは、ドラッカーがマネジメントまたは仕事という領域において目標の重要性をとらえている点です。
組織に成果を上げさせるには、そこで働く人が組織の目標を知らなければなりません。
また、自分の成果を上げるには組織の目標を理解した上で、自分がどの分野でどの程度貢献するのかその目標を理解しなければなりません。
このように考えると、仕事で成果を上げるには、目標を理解することが欠かせないということになります。言い換えると、「目標を知らなければ、組織やその人の高い成果は期待できない」ということになるわけです。
一方、ドラッカーが領域をマネジメンに限定したのに対して、アドラーはその領域を人間の生活全般に広げています。その上で「その人の目標を知らなければ、その人の行為や行動を理解することはできない」と言うわけです。
では、このアドラーの考えをマネジメントや仕事の領域のみに適用するとどうなるでしょう。そう、ドラッカーの考えと見事重複することがわかると思います。
つまり対象とした範囲は異なりますが、アドラーとドラッカーは目標へのアプローチについてほぼ同じスタンスをとっていたと考えていいと思います。
「共同体」への貢献も2人の共通する考え
またアドラーは、人はおしなべて共同体に所属し、よって共同体への貢献が社会的に有用な人になるための鍵だ、と考えました。
加えてアドラーは、人は共同体に貢献することで深い幸福感を抱くものだとも考えました。
ドラッカーもアドラーと同様、貢献を極めて重要なキーワードととらえていました。というのも、組織による社会への貢献なくして組織は利益を手にすることができないからです。
また、人による組織への貢献なくして人は報酬を手にすることができないからです。
このように個が全体に貢献する態度を重視する点でも、アドラーとドラッカー見解は見事に軌を一にします。
いかがでしょう。ちょっと意外だったかもしれませんが、アドラーとドラッカーの共通点、理解していただけたと思います。
(第3回・了)
【著者】中野 明(なかの あきら)
1962年滋賀県生まれ。作家。立命館大学文学部哲学科卒。同志社大学非常勤講師。ビジネス、情報通信、歴史の3分野で精力的に執筆活動を展開。著書に『超図解 勇気の心理学 アルフレッド・アドラーが1時間でわかる本』(学研パブリッシング)、『ポケット図解 ピーター・ドラッカーの「自己実現論」がわかる本』(秀和システム)、『今日から即使える!ドラッカーのマネジメント思考』(朝日新聞出版社)、『悩める人の戦略的人生論』(祥伝社新書)など多数ある。近著は『アドラー 一歩踏み出す勇気』(SB新書)。