スキルアップ
2014年10月7日
漫画『カイジ』から学ぶ「土壇場で一発大逆転を実現する極意」
[連載]
ゲーム理論で身につける、勝つための駆け引きの極意【4】
文・安部徹也
船井への"最終宣告"
もう後がないカイジは最後の挑戦者である船井を呼び寄せ、予想外の提案を行います。
自分達が持つ5個の星をすべて賭けて勝負しようと持ち掛けたのです。
船井が持つ最後のカードはグーであることはカイジもお見通し。戦えば必ず負けるとわかっている勝負に船井は異議を唱えます。
ところがカイジも最終戦で5個の星を賭けることを譲りません。
交渉は両者平行線を辿り、時間だけが刻一刻と過ぎていきます。焦る船井はついに折れて「星3つではどうだ」と提案しますが、カイジは首を縦に振りません。あくまでも5つでなければ勝負は受けないと最後通牒を宣告したのです。
実はカイジは船井との最終戦に当たって、ある悲壮な決意を持って臨んでいました。
それはカイジが一旦敗者となり、"地獄に落ちる"ということ。
カイジ達の手持ちのカードは、現状66枚。船井と1戦すれば65枚となり、船井との最終戦を終えて仲間内であいこでカードを消費しようにも、1枚余ることになり、最終的に3人のうち誰かが敗者として地獄に落ちなければならないのです。
これは"限定じゃんけん"の最中に不正に3枚のカードをトイレに破棄する者が現れて、最終的にカードが1枚残るアクシデントが発生していたことが原因でした。そして、最後のカードを残して一旦地獄に落ちるという損な役回りを、カイジは自ら進んで引き受ける決断を下したというわけです。
このカイジの失うものは何もないの捨て身の戦法に、どうあがいても船井は抗うことはできないと観念。
最終戦で星5つを失い、星3つとなってもギリギリ勝者でゲームを終えるか、カイジの申し出を断り、1枚のカードを残して敗者に落ちるか・・・自ずと選択肢は決まっていたのです。
船井はカイジの申し出を受け入れ、負けるとわかっていても星5個を賭けた最終戦に臨みます。
カイジは"限定じゃんけん"のルールに従い、一旦は敗者としてゲームを終えるものの、3人で獲得した星10個、現金600万円で最終的に勝者として残った仲間の古畑と安藤から、終了後にギャンブルで得た莫大な"資産"を使って救済してもらうことに望みを託します。
カイジ達3人組は、ギリギリのところで一発大逆転の勝利を収め、ギャンブルを終えることができたのです。
相手から最大限の利益を得るためには『最後通牒』が効果的
ゲーム理論において1回のみの交渉モデルに『最後通牒ゲーム』があります。
『最後通牒ゲーム』とは、一方が条件の提示を行い、相手がその条件を受け入れるか、拒否するかを選択するだけのシンプルなゲーム理論のモデルです。
『最後通牒ゲーム』では、条件提示をする側が圧倒的有利な立場にあり、相手に不利な条件を飲ませることにより、取引から最大限の利益を引き出すことができます。
逆から言えば、相手に最小限の利益を残すことによって交渉の余地が生まれ、取引を成功に導くことが可能になるのです。
もし、条件を提示された側が、取引によって甚大な不利益が生じるのなら、申し出を断る方が得策です。わざわざ大きな損をすることが分かっていて取引を行う者など、合理的に考えれば存在しないからです。
たとえば、ストーリーの中では、カイジは船井に自分達が持つ5つの星を賭けた最終決戦を持ち掛けました。船井にとっては手持ちの残り1枚のカードが見透かされている状況では、勝負をすれば確実に星5個を奪われて3個になってしまうのは必至です。ただ、勝負を受けなければ他に勝負をする者がいない最終局面では、制限時間になった時にカードを1枚残すことになり、星はいくつ持っていても意味のない"資産"となり敗者になってしまうのです。
こうなると、カイジの申し出を受けてギリギリの勝者となって生き残るか、申し出を断り敗者になるかの二者択一となります。ここで敗者になるよりは、星を一気に5個失ったとしても勝者として残る方が船井にはメリットがあり、カイジの申し出を受けざるを得ない状況に追い込まれてしまったのです。
このように交渉においては、圧倒的に優位な立場に立つことを目指し、『最後通牒ゲーム』に持ち込むことができれば、最大限の利益を実現し、土壇場で一発大逆転することも夢ではなくなるのです。
『賭博黙示録 カイジ』 福本信行著 講談社刊
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(了)
[連載]ゲーム理論で身につける、勝つための駆け引きの極意 記事一覧
[1]漫画『カイジ』から学ぶ「絶体絶命のピンチに陥らない極意」
[2]漫画『カイジ』から学ぶ「情報戦で勝ち抜く極意」
[3]漫画『カイジ』から学ぶ「不利な状況に追い込まれないための極意」
[4]漫画『カイジ』から学ぶ「土壇場で一発大逆転を実現する極意」
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【著者】安部徹也(あべ てつや)
株式会社MBA Solution代表取締役。1990年九州大学経済学部を卒業後、現三井住友銀行入行。退職後、インターナショナルビジネス分野で全米No.1のビジネススクールThunderbirdにてMBAを取得し、経営コンサルティング及びビジネス教育を主業とする株式会社MBA Solutionを設立。代表に就任し、現在に至る。2003年から主宰する『ビジネスパーソン最強化プロジェクト』では2万6千人以上のビジネスパーソンが参加しMBA理論を学んでいる。主な著書に『最強の「ビジネス理論」集中講義』(日本実業出版社)、『超入門コトラーの「マーケティング・マネジメント」』(かんき出版)などがある。『ワールド・ビジネス・サテライト』(テレビ東京)を始めとした多くのニュース番組出演を始め、日本経済新聞、週刊ダイヤモンドなどのビジネス系メディアにも登場多数。現在は、一般社団法人日本MBA協会の代表理事としても、一人でも多くのビジネスパーソンにMBA理論を普及させるべく日々奔走している。近著は『「やられたら、やり返す」は、なぜ最強の戦略なのか』(SBクリエイティブ)
株式会社MBA Solution代表取締役。1990年九州大学経済学部を卒業後、現三井住友銀行入行。退職後、インターナショナルビジネス分野で全米No.1のビジネススクールThunderbirdにてMBAを取得し、経営コンサルティング及びビジネス教育を主業とする株式会社MBA Solutionを設立。代表に就任し、現在に至る。2003年から主宰する『ビジネスパーソン最強化プロジェクト』では2万6千人以上のビジネスパーソンが参加しMBA理論を学んでいる。主な著書に『最強の「ビジネス理論」集中講義』(日本実業出版社)、『超入門コトラーの「マーケティング・マネジメント」』(かんき出版)などがある。『ワールド・ビジネス・サテライト』(テレビ東京)を始めとした多くのニュース番組出演を始め、日本経済新聞、週刊ダイヤモンドなどのビジネス系メディアにも登場多数。現在は、一般社団法人日本MBA協会の代表理事としても、一人でも多くのビジネスパーソンにMBA理論を普及させるべく日々奔走している。近著は『「やられたら、やり返す」は、なぜ最強の戦略なのか』(SBクリエイティブ)