カルチャー
2015年2月25日
なぜイヌは、働くお父さんの言うことを聞かないのか?
文・佐藤えり奈
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 ではまず、理由【1】と理由【2】の場合に飼い主が取るべきふるまいについて考えてみましょう。

 世間一般では「イヌが落ち着くまで無視する」という方法が推奨されているようですが、実際は帰宅して大喜びするイヌがそばにいるのに「無視を決め込む」のはなかなか難しいはずです。飼い主も心苦しいし、結局、吠え止まず、途中で飼い主側が値を上げてしまい、吠えが悪化する可能性もあります。

 このようなイヌに対しては、普段(父親の帰宅時以外)から、要求吠えや興奮したときに吠えることがないようにしつけておきます。たとえば、イヌがおやつやごはんを欲しいとき、遊んでいる最中にぬいぐるみを投げてほしいとき、かまってほしいときなどに吠えても対応せず、落ち着いている「瞬間」に対応することです。

 吠えないことで強化子(ここでは、おやつやごはん、ぬいぐるみやかまってあげること)が与えられ、吠えない行動が増えることを「正の強化」といいます。無視は、行動学の用語で「負の罰(タイムアウト)」といいますが、この「正の強化」と一緒に用いることで効果を期待できるのです。

 確かにイヌは「吠えるのが仕事」ともいえますから、興奮のあまり声が出ても吠え続けないように、飼い主のコマンドに従うようにしておきましょう。

 飼い主が「静かにしろ!」と大声で怒鳴るのは、よけいにイヌを興奮させてしまうので逆効果です。「飼い主の足下で静かに座ったら撫でる」のように、あくまでも飼い主は落ち着いた状態で普段からしつけておきます。

 なお、飼い主が帰宅したときにイヌがケージ内など隔離された環境にいると、「ケージから出たい」という要求や、出られない興奮などが入り交じり、極度の興奮状態で吠えることがあります。こんなときは、普段からケージを開け放しにして、イヌが自由に出入りできるようにしてみてはいかがでしょうか?

 そうすれば、帰宅時の吠えが削減されるだけでなく、ケージの外に出たときの興奮がグッと減るようになります。もちろん、ケージの外でのトイレのしつけや、イヌが触ってはいけないものをきちんと教えてあげるのは飼い主の役割です。

 続いて理由【3】の解決方法を考えてみましょう。
 イヌは、普段から家にいる時間が少なく、信頼関係も築けておらず、しかもちょっぴり怖い存在であれば、お父さんに吠えることもあるでしょう。このとき「静かにしろ!」とイヌを怒鳴れば、興奮したり、さらに激しく吠え、関係が悪化する可能性もあります。
 こんなときは、怒鳴るよりも、姿勢を低くして、目を直接見ずに、やさしい声でイヌに呼びかけてみましょう。イヌは自ら近寄ってくるはずです。さらに、普段、イヌに声をかけるときは低すぎない声で楽しそうにイヌに呼びかけてみてください。そして、イヌと一緒にボールやぬいぐるみで遊んであげたり、散歩に連れていったりしてください。そうすれば、絆は強くなります。

 なお、イヌが吠えている最中に、いちばん懐いている家族(奥さんなど)が、やさしくなだめたり、抱っこしたりするのはよくありません。イヌは「お父さんに吠えるとお母さんにやさしくしてもらえる=正しい行動」と学習してしまいます。「主従関係を構築し直すべき」という意見もあるようですが、家族の無意識な行動が原因になってることもあります。



イヌの気持ちがわかる67の秘訣
なぜどこにでも穴を掘ろうとするの?どうしていつも地面のにおいを嗅ぐ?
佐藤えり奈 著



【著者】佐藤えり奈(さとうえりな)
京都市生まれ。米国ミネソタ大学生物科学部生態進化行動学科卒業。生物学、動物の生態・行動学を学んだのち、英国のピーター・ネヴィル博士に師事しながら、COAPE(Centre of Applied Pet Ethology)にてディプロマ修了。現在、京都を中心にイヌの問題行動を解決するペット心理行動カウンセリングを行い、日本大学発のベンチャー企業であるスノードリーム株式会社でもカウンセラーを務める。飼い主向け・獣医師向けのセミナーも行っている。おもな著書は『イヌの「困った!」を解決する』『イヌの気持ちがわかる67の秘訣』(サイエンス・アイ新書)。
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