スキルアップ
2015年4月16日
統計資料の数字に"だまされない"ために
[連載] 社会人1年生のための統計学教科書【2】
文・浅野 晃
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 人は、数字で表現された情報は、つい盲目的に信用してしまいがちです。

 しかし、その数字が表している意味をよく知っていないと、適用の限界や結果の意味を誤解し、誤った結論を信じてしまうことにもなりかねません。

 前回と同様に、「数字で表された表現」を正しく読む方法を、例を通して見てみましょう。

【やってみよう】数字から受ける印象


 数字自体には、その値以上の意味はありませんが、人間は自分の常識や感覚と比較することによって、勝手な印象をもつものです。逆に、どのような印象を与えるかを考えて、数字を公表するという手が使われることもあります。次のような表現について、どのような問題があるかを考えてみましょう。

1. この宝くじには、1等1億円の当たりくじが100本入っています。

2. (高速道路の入り口の表示)環状線までの所要時間:70分

3. (以下の2つの表現は、どちらが適切かを考えてみてください)

(a) 平成22年国勢調査によると、日本の人口は128,057,352人、65歳以上の人口は29,245,685人である。
(b) 平成22年国勢調査によると、日本の人口は約1億2805万人、65歳以上の人口は約2925万人である。


「数字から受ける印象」の答え

1. 宝くじの広告によく書かれている表現ですが、そのくじが「何本発売されたか」がわからなければ、100本の当たりというのが多いのか少ないのかはわかりません。

2. 「分」という単位には「短い時間」という印象があります。「70分」と書いてあるほうが「1時間10分」と書いてあるよりも短く感じます。

3. よく、演説などで(a)のように細かい数字を並べたてて、数字に強いところを見せようとする人がいます。しかし、1億人の人口の最後の一桁にどれほどの意味があるのでしょうか? 通常は(b)のような表現で十分です。

【やってみよう】何を表現する数字なのか


 日常見かける数字は、現実の何かを数字で表したものです。ですから、その「現実の何か」が何であるかを見誤ると、まったく意味のない数字になってしまいます。次のような表現について、どのような問題があるかを考えてみましょう。

1. あるいくつかの食料品販売店を調査したところ、全体の3%の商品について、内容量が表示されている量に足りない、という不正が発見された。したがって、消費者は平均して3%損をしていることになる。

2. 1時間あたりに発生する交通事故件数は、朝と夕方が多い。朝や夕方の時間帯には、何か生理的に事故を起こしやすい原因があるのではないだろうか。

3. 日本での実際のデータによると、たばこを1日に20本吸う人は、1本も吸わない人に比べて10倍肺がんで死亡しやすい。






社会人1年生のための統計学教科書
データの見方からリスク・リテラシーまで
浅野 晃 著



【著者】浅野 晃(あさの あきら)
1964 年大阪生まれ。大阪大学大学院工学研究科応用物理学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。九州工業大学情報工学部助手,広島大学総合科学部助教授,同大学院工学研究科情報工学専攻教授を経て,現在は関西大学総合情報学部教授。専門は画像科学・感性科学・統計学。電子情報通信学会,応用統計学会,日本感性工学会,米国電気電子学会(IEEE),米国光学会(OSA)会員。アマチュア管弦楽団のコントラバス奏者でもある。近著は『社会人1年生のための統計学教科書』。
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