スキルアップ
2015年3月11日
統計調査(アンケート)の質問に"だまされない"ために
[連載] 社会人1年生のための統計学教科書【1】
文・浅野 晃
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統計調査について


 調査によるデータの収集は、統計的処理によるデータ解析の出発点であり、ここが正確でないと後の処理はまったく無意味になってしまいます。

 しかし、不注意な調査は案外いろいろなところにあります。また、わざと不当な調査を行い、都合のよい結論を導く「我田引水」的な調査例も、残念ながらよくあります。

 世の中に「アンケート」があふれているように、統計調査というのは簡単にできるように思われているふしがあります。しかし、たとえば「質問数が多すぎて、だんだんいい加減に回答するようになってしまう」アンケートには、日常よく出会うものです。

 統計調査は、その方法についてだけでひとつの本が書かれるほど、慎重に扱わなければならない、むずかしいものです。そこで、「悪い調査」の例をいくつか見ていくことで、調査のありかたについて考えてみましょう。ここであげた例は、いずれも「悪い例」として有名なものです。

 なお、国が行う国勢調査などの統計調査については、調査が「ズル」によって歪められることのないように、統計法という法律によって、きびしい規制・罰則があります。2013年には、ある町で、「市への移行条件を満たすために、2010年の国勢調査の結果を改ざんして人口を水増しした」という疑いで、当時の副町長が「統計法違反」で逮捕され、有罪となるという事件がありました。

【やってみよう】良い質問とは


 良い質問とは何かを考えるため、次の「悪い質問」の例を見て、何が悪いのかを考えてみてください。

1. もし、あなたが車を運転していて、がまんできないくらい眠くなったら、あなたはどうしますか。

2. あなたは、世の中で一番大切なのはお金であると思いますか。

3. あなたは、「学歴よりも実力が大切だ」と思いますか。

4. あなたは、「宇宙開発は、安全保障上重要なので、進めるべきだ」という意見に賛成ですか。

5. 当店のお客様に対する対応はいかがでしたでしょうか。次のなかからお選びください。  (1) 不満 (2) おおむね満足


「良い質問とは」の答え

1. 車を運転しない人にとっては、答えようのない質問です。「もし~だとすれば」という仮定の質問をするには、その仮定に十分な必然性が必要です。

2. 「 あなた自身がお金が一番大切だと思っていますか」なのか、「『世の中の人はお金が一番大切だと思っている』とあなたは思っていますか」なのか、意味があいまいです。

3. 「学歴よりも実力が大切」かどうかを判断するにはまず、「学歴と実力は別のものである」「学歴と実力は比較できる」という前提が必要ですが、それは必ずしも正しいと認識されているとはいえません。

4. 「宇宙開発は安全保障上重要だが、進めるべきではない」「宇宙開発は安全保障上重要ではないが、それでも進めるべきだ」という意見のもち主は、この質問に答えることができません。これは、「宇宙開発を進めるべきだ」とする理由が「宇宙開発は安全保障上重要だから」以外にない、と質問者が勝手に思いこんでいることが原因です。このように、質問に2つ以上の論点があり、どれを聞かれているのかが不明確な質問をダブルバレル質問といいます。「ダブルバレル(double-barreled)」とは、もともとは2本の銃身をひとまとめにした銃のことをさします。
 こういう場合は、まず「『宇宙開発を進めるべきだ』という意見に賛成ですか」という質問をした後で、さらにその理由を問うようにします。

5. あきらかに、「満足である」という回答に誘導しようとしています。このような選択肢を作りたいのなら、たとえば、

 1. 不満 2. やや不満 3. どちらでもない 4. おおむね満足 5. 満足

の5つの選択肢にしなければなりません。






社会人1年生のための統計学教科書
データの見方からリスク・リテラシーまで
浅野 晃 著



【著者】浅野 晃(あさの あきら)
1964 年大阪生まれ。大阪大学大学院工学研究科応用物理学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。九州工業大学情報工学部助手,広島大学総合科学部助教授,同大学院工学研究科情報工学専攻教授を経て,現在は関西大学総合情報学部教授。専門は画像科学・感性科学・統計学。電子情報通信学会,応用統計学会,日本感性工学会,米国電気電子学会(IEEE),米国光学会(OSA)会員。アマチュア管弦楽団のコントラバス奏者でもある。近著は『社会人1年生のための統計学教科書』。
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