スキルアップ
2015年6月16日
竹島より深刻! 中国にすり寄る韓国の知られざる領有権問題
[連載] 「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質【7】
文・松本利秋
  • はてなブックマークに追加

離於島問題を緩和し中国にすり寄った韓国


 そうした現実を前にした韓国の動揺は尋常ではない。日本の島根県議会が条例で「竹島の日」を制定したことに倣って、離於島を管轄下に置く済州島(さいしゅうとう)議会は「離於島の日」を制定する予定だったが、議論を中止してしまった。

 韓国の頼みとなるのは米軍の存在であるが、アメリカは北東アジアでの領土問題については中立的な立場を執っている。まして国際法上の島でさえない暗礁を守るために、アメリカが韓国側に立って中国相手に軍事力を発動することはあり得ない。

 今や離於島問題は韓国にとっては、危険なステージに入り込んでしまったと言えるだろう。この状況を打破する一つの有力な手段は、韓国内で反日ムードを高め「中韓共通の敵国としての日本」を想定することで、中国に接近するというものである。

 2013年6月27日、韓国の朴槿惠(パククネ)大統領は、これまでの慣習を破って日本を飛び越し、中国を訪問して習近平(しゅうきんぺい)主席と会談した。両首脳は中韓の結束ぶりをアピールし、露骨な日本外しを見せつけた。
 そして伊藤博文を暗殺したテロリストである安重根(アンジュングン)の記念碑を、中国国内に建設することに同意するなど一層の反日を煽り立てたのである。

 中国にすり寄り始めた韓国の態度について、日本のメディアでは中国経済との関係においての解説が主流である。たとえば、韓国の貿易総量に占める中国の比率は21%を超え、韓国のGDPに対しても20%以上に達している。この状況一つからも韓国は中国にすり寄らざるを得ないのだ。

このような経済的側面も中韓接近の重要な要因だが、この視点だけでは北朝鮮問題解決についての重要なファクターを見失うことになりかねない。韓国にとって北朝鮮は軍事的な脅威であり、それに加えてもう一つの軍事的脅威として、離於島を巡る問題が加わってきたという、パワー・バランスの変化も極めて切実な要因なのである。

 韓国は、これを取り除く手段として全面的に中国にすり寄り、中国の力を借りて北の脅威を取り除き、同時に離於島問題を緩和するという方向に舵を切ったと見るべきだろう。
 この視点に立てば、日本にとっても韓国の存在は、今や北朝鮮問題に対するパワー・バランスの一環であるとした冷徹な戦略が必要とされる状況にあると見るべきだろう。

 それには日本人の間に広く行き渡っている「日韓の交流をさらに深めて話し合いをすれば、相互の理解が深まり、好ましい日韓関係が構築できる」という、曖昧な幻想を基礎とした現状認識を捨てることである。

 現実的には、日韓間の人的交流だけを取り上げても、すでに年間500万人を超え、単純計算では1ヵ月当たり41万6000人以上が両国を往来しているのだ。これほどの大規模交流にいたりながらも、領土問題や歴史問題を含めたさまざまな問題を巡る状況は悪化の一途である。このことは量的規模の拡大と相互理解は別問題であり、人的交流をいかに進めても、関係改善に対する効果は極めて限定的であることを如実に示している。

 従って現実では、アメリカの軍事費削減を続けていくオバマ政権である限り、アメリカは具体的なアジア政策を曖昧なままに放置していくだけであり、この現実から韓国がパワー・バランスを保持するための選択肢として、中国に傾斜していくことは止めようがない。その結果、北朝鮮問題解決は日本が積極的な役割を担っていく方向が一番の近道であると覚悟して、戦略の立て直しを早急にやっていく必要がある。






「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質
松本利秋 著



松本利秋(まつもととしあき)
1947年高知県安芸郡生まれ。1971年明治大学政治経済学部政治学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了、政治学修士、国士舘大学政経学部政治学科講師。ジャーナリストとしてアメリカ、アフガニスタン、パキスタン、エジプト、カンボジア、ラオス、北方領土などの紛争地帯を取材。TV、新聞、雑誌のコメンテイター、各種企業、省庁などで講演。著書に『戦争民営化』(祥伝社)、『国際テロファイル』(かや書房)、『「極東危機」の最前線』(廣済堂出版)、『軍事同盟・日米安保条約』(クレスト社)、『熱風アジア戦機の最前線』(司書房)など多数。
  • はてなブックマークに追加