スキルアップ
2015年6月4日
韓国が反日にこだわる本当の理由は「日中に挟まれた地理」にある
[連載] 「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質【6】
文・松本利秋
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二頭のクジラに挟まれた小エビ


 北東アジアの地図を開いて、朝鮮半島を中心に逆さまに見てみると、まず韓国からすれば、北には国境沿いに大軍を張り付けた北朝鮮の存在が重くのしかかっている。西は黄海(こうかい)を挟んで中国と接している。

 青島(チンタオ)上空を経由して仁川(インチョン)に向かう飛行機で、黄海上空を飛んだことがあるが、眼下に広がる海には無数の島々や岩礁が散らばり、中国側から夥しい数の漁船が韓国方向に向かっている様子も手に取るように見られた。
 当然のことだが、この海域には韓国漁船も操業しており、両国は黄海を挟んで実に入り組んだ関係にあることが実感できた。

 朝鮮半島の南と東には日本列島が横たわる。言うまでもなく日本の存在は大きく、朝鮮半島の政情に日本も深くかかわってきている。近代にいたっては日清・日露の両戦争が朝鮮半島の帰属を巡る争いが主な原因となっていた。
 つまり、朝鮮半島を中心に北東アジアを眺めてみれば、この半島は日本と中国という大国に挟まれて常に翻弄されてきたことが明確になる。

李承晩ライン (c)フレッシュ・アップ・スタジオ 無断転載を禁ず ※クリックすると拡大

 このような状況を、韓国の初代大統領李承晩(イスンマン)は「巨大な二頭のクジラに挟まれた小エビ」にたとえ、二頭のクジラが暴れるたびに小エビは右に左に波の上をアップアップしながら漂うしかないと表現している。

 1945年の日本の敗戦により独立を果たした韓国は、この「小エビ」の状況から抜け出たいと切に願ったのはごく自然のことだろう。そのためには、まず国民が団結しなければならない。国民の意思を一つにするには極めて具体的な敵が必要だ。

 長い間アメリカに留学し、敬虔なキリスト教徒であった李承晩大統領は、戦勝国アメリカの強力なバックアップがある。従って日本を諸悪の根源とした、戦勝国アメリカの論理に則って日本に対する敵対意識を盛り上げることとなった。

李承晩のライバル金日成は抗日戦線の英雄


 韓国が反日にいたったもう一つの理由は、北朝鮮の金日成(キムイルソン)が終戦直後に日本軍を打ち破り、朝鮮を解放した抗日パルチザンの英雄として登場したことだ。

 金日成はゲリラを指揮して日本軍を打ち負かし、独立を勝ち取ったという、北朝鮮の建国神話を作り上げ、権力者としての正当性を主張したのだ。だが冷戦の崩壊後にソ連の機密文書が暴露され、金日成はソ連の傀儡として仕立て上げられ、彼のパルチザンとしての実績も創作されたもので、実に危ういものであることが判明した。

 李承晩大統領は、戦争中はアメリカに居住しアメリカ人妻を持つ留学生に過ぎず、アメリカに都合のよい人物と見られて、戦後にアメリカが連れてきて大統領に仕立て上げた。
 従ってライバルである北の金日成のようなカリスマ的なものはなく、建国神話も作れないない。このため、なお一層反日政策を採り、自らの正当性を示そうとやっきになった。

 その具体的な表れが、1952年に李承晩大統領が「海洋主権宣言」を行い、一方的に引いた通称「李承晩ライン」という領海線の中に、竹島を取り込んだことである。

 当時の日本は米軍占領下で、何も主張ができない状況であった。その後、李承晩は警備 隊を竹島に常駐させるという実力行使に出た。日本漁船を拿捕(だほ)したり、銃撃を加えて多数の死傷者を出すなど、日本人に対してむき出しの敵意を見せつけることで、自らのアイデンティティーを示したのである。






「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質
松本利秋 著



松本利秋(まつもととしあき)
1947年高知県安芸郡生まれ。1971年明治大学政治経済学部政治学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了、政治学修士、国士舘大学政経学部政治学科講師。ジャーナリストとしてアメリカ、アフガニスタン、パキスタン、エジプト、カンボジア、ラオス、北方領土などの紛争地帯を取材。TV、新聞、雑誌のコメンテイター、各種企業、省庁などで講演。著書に『戦争民営化』(祥伝社)、『国際テロファイル』(かや書房)、『「極東危機」の最前線』(廣済堂出版)、『軍事同盟・日米安保条約』(クレスト社)、『熱風アジア戦機の最前線』(司書房)など多数。
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