スキルアップ
2015年7月3日
競争に勝つために実は必要な「嫌われる勇気」
[連載]
人と比べない生き方――劣等感を力に変える処方箋【7】
文・和田 秀樹
劣等感を力に変えれば人生が変わっていく
劣等感という言葉を聞くと、たいていの人は良いものだとは思わないはずです。できれば劣等感は持たないほうがいいと考えるでしょう。しかし、劣等感というのは人間を動かす大きな動機づけとなり得るものなのです。
劣等感とは自分が負けているという感覚のことですが、負けていると感じてそこから奮起して勝とうとする人がいる一方で、負けていると感じたまま打ちのめされてしまう人もいます。同じように劣等感を持っても、その劣等感を力に変えていくことができる人と、そうでない人がいるということです。
アドラーは背が低いことで有名でした。彼は背が低いことに対する劣等感を力にして、後世に影響を与える優れた心理学者になったのです。
背が低いことに対して劣等感を抱いている人は、背の高さで勝負することはできません。勝てるのは自分より背が低い人に対してだけですが、そこで劣等感が消えてしまうというものでもありません。背の高さで競争している限りは逆転もないわけです。
ですから、劣等感を力に変えるためには、それ以外のことで、しかも勝てる見込みがあるもので競争するのが賢明ということになります。ここは重要なところです。
たとえば、「自分は背が低いから女性にモテないんだ」と思っている男性はたくさんいると思います。しかし、背が低くてもモテる男性はたくさんいるのです。現実的な話をすれば、私ぐらいの年代になると、背が高くてモテる人よりも、背が低くてモテる人のほうがなぜか多いくらいです。
背が低いことに対して劣等感を背負っているぶんだけ金持ちになろうとする人もいれば、ファッションセンスや話術などを磨こうとする人もいます。年を取ってくると、背が高いとかルックス的なものよりも、自分の力で勝ち得たもので女性にモテる男性が多いのが現実ですから、勝てそうなところで努力するのが賢明な方法と言うことができます。そして、背が低いからモテないと決めてかかって何の努力もしない人は、おそらく一生、背が低いことのせいにして不遇をかこつことになるでしょう。
人間というのは劣等感を抱きやすいものですが、アドラーが言う優越性の追求が人を動かす動機づけになるとすれば、劣等感はその原動力となり得るエネルギーと言っていいでしょう。その劣等感というものを力にしていくかいかないかで、人生はまったく違うものになると言うことができます。
劣等感を抱くと、そのことばかりが気になるものですが、「ほかのことで競争しよう」「別の勝てる方法がないか」と思えるかどうかが、劣等感をエネルギーに変えるための大きなポイントになるのです。
なお、この連載のメインテーマである「比べること」については、拙著『人と比べない生き方――劣等感を力に変える処方箋』(SB新書)でも、アドラーやコフートの理論を交えながら解説しているので、あわせてご一読いただければ幸いです。
(了)
和田秀樹(わだひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『比べてわかる! フロイトとアドラーの心理学』『自分が自分でいられるコフート心理学入門』(以上、青春出版社)、『自分は自分 人は人』『感情的にならない本』(以上、新講社)など多数。
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『比べてわかる! フロイトとアドラーの心理学』『自分が自分でいられるコフート心理学入門』(以上、青春出版社)、『自分は自分 人は人』『感情的にならない本』(以上、新講社)など多数。