スキルアップ
2015年7月3日
競争に勝つために実は必要な「嫌われる勇気」
[連載]
人と比べない生き方――劣等感を力に変える処方箋【7】
文・和田 秀樹
競争に勝ったほうは嫌われるもの
アドラーは「他人からどう思われるかは気にするな」と言っています。かといって「他人の存在を無視しろ」とは言っていません。優越性の追求が大事だと言っているのですから、他人という存在を意識したうえで相手に対して優越性を持とうとする、つまり勝ちたいという意欲を持つことが大事だと言っているのです。
この優越性を追求するとき、つまり競争に勝とうとするときに知っておかなくてはならないのは、勝ったら往々にして嫌われるということです。引退した朝青龍は、勝ったときに負けた相手に優しくないという理由で嫌われましたが、たとえ負けた相手に優しくしても、負けたほうは嬉しいとは思わないはずです。
負けた人の心理について、もしもフロイトやメラニー・クラインに聞くことができれば、「負けたほうは勝った者に対して嫉妬する」と言うかもしれません。コフートなら「負けたほうは自己愛が傷つく」と言うかもしれません。アドラーなら「負けたほうは劣等感を抱く」と言うでしょう。結局、負けたほうは嫉妬したり自己愛が傷ついたり劣等感を抱くなどするのです。つまり、勝つということは負けたほうに不快感を与えるわけですから、勝ったほうは嫌われやすいのです。
そういうことを考えると、人に嫌われたくないと思っていては、勝つことができないということになります。学歴競争でも、「受験に落ちた人は不快感を持つだろうな」などと気にしていたら、手に入れたい学歴を得ることもできません。競争という点では、やはり他人の目を気にする必要はないのです。
現代は劣等感を持っている人が多い
いまの時代は劣等感を持つ人が多いと私は考えています。その理由は、昔に比べて負けている側のハンディキャップが大きくなりすぎているからです。
振り返ると、昭和20年代、30年代はみんなが貧しかったわけですが、当時は公立高校に行って受験競争で負けたとしても、誰も最初から負けるに決まっていると思って競争していたわけではありませんでした。
ところがいまは、中学・高校の段階で勝ち組と負け組にほぼ分かれてしまい、負け組に入った子どもは「どうせ勝てないや」と思って、そこで劣等感を抱くわけです。
また、私の世代は親の学歴が中卒や高卒が普通で、旧制中学を出ているだけでもまだましなほうでした。小学卒という人もたくさんいましたが、それは恥ずかしいことでも何でもなく、当たり前の時代だったのです。そのころは、「親は学歴がないが、子どもに勉強させればできるようになるはずだ」という素朴な概念があったので、野口英世のように貧困の家庭に生まれながらも学問を身に付けて偉人になるというストーリーがウケたのです。
ところがいまは、「オレは躍起になって受験勉強をしたのに、この程度の大学にしか行けなかった。どうせオレの学歴が低いから子どもに勉強させたってダメだよな」と考えている親が多いのです。
そういう考えを抱かせる大きな理由としては、戦争が終わって70年も経っていて、たとえば祖父も父も子どもも東大出という家が生まれてきていることが挙げられます。
しかも、高学歴であることから収入の多い職種に就く確率が高く、そのために代々金持ちというケースも少なくありません。
このような事例が出てくると、親も自分も低学歴だとすれば、次の代である子どもの学力も知れたものだと考えてしまっても不思議ではありません。遺伝だから仕方がないとあきらめてしまうのです。
しかし、学歴や学力は遺伝とは関係がありません。ただし、親がたとえば東大卒であれば、東大受験突破のノウハウや東大向けの勉強の仕方を教えられるという大きな利点があるのです。裕福であれば小学校から塾にたくさん通わせたりプロの家庭教師を付けたりすることもできます。
そういう環境で育った子どもは、授業料の高い私立の中高一貫校に進み、さらに塾に通い、やがては親と同じように一流大学に進む可能性が高くなるのは当然でしょう。
また、塾や家庭教師などの話からもわかるように、金持ちの子どものほうが高い学歴を身に付けやすいということも言えます。勝ち組の子は勝ち組になりやすいということです。
そういうカラクリをあまり知らない一般家庭の親は、勝ち組を横目で見ながら「自分の学歴が低いから、どうせ子どももそうだろう」と、あきらめムードになって劣等感を抱いてしまうわけです。
その親の思いや考えが同じ家に住む子どもにも伝わっていくことは容易に想像がつきます。ですから子どもたちも、「親の学歴を考えたらどうせ自分もこの程度だろう」と思ってやる気をなくし、劣等感を抱いてしまうのです。
貧富の格差が増大しつつあると言われています。一部の金持ちとそれ以外の貧乏な人というように二極化が進みつつあるのが現状ですから、お金の〝ある・なし〟が子どもの学歴にも反映されていく可能性は否定できません。いまの時代は劣等感を持つ人が多いと言いましたが、二極化がさらに進めば、これから先もどんどん増えていくのではないかと私は危惧しているのです。
和田秀樹(わだひでき)
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『比べてわかる! フロイトとアドラーの心理学』『自分が自分でいられるコフート心理学入門』(以上、青春出版社)、『自分は自分 人は人』『感情的にならない本』(以上、新講社)など多数。
1960年大阪府生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。著書に『比べてわかる! フロイトとアドラーの心理学』『自分が自分でいられるコフート心理学入門』(以上、青春出版社)、『自分は自分 人は人』『感情的にならない本』(以上、新講社)など多数。