カルチャー
2015年8月12日
「糖質ゼロ」「ノンカロリー」..."ゼロ食品"は厳密には"ゼロ"ではない
[連載]
体を壊す食品「ゼロ」表示の罠【1】
文・永田 孝行
「糖質ゼロ」「糖類ゼロ」「炭水化物ゼロ」...違いは何?
続いて、同じ「ゼロ」というワードを含むまぎらわしい表示についてもふれておきましょう。
近年、糖質の摂りすぎが、肥満や糖尿病をはじめとする生活習慣病のリスクを高めるのだという主張が広まっています。しかしながら、糖質ゼロ、糖類ゼロ、炭水化物ゼロ......これらの違いをどれだけの人が正確に知っているでしょうか。
これらの違いを理解するためには、三大栄養素のひとつ、炭水化物および糖質の定義や分類についての知識が不可欠です。
まず、炭水化物は「糖質+食物繊維」です。換言すれば、糖質とは、炭水化物から食物繊維を除いたものの総称。つまり、「炭水化物ゼロ」と表示されていれば、「糖質もゼロに近い」と見なして問題ありません。
糖質に関しては、単糖類、二糖類、多糖類、糖アルコール、その他の5つに大きく分類されます(詳しくは図2を参照)。そして糖類とは、単糖類と二糖類の総称です。つまり、糖質の一部(単糖類または二糖類)が「糖類」と呼ばれているわけです。
単糖類は、それ以上、加水分解されない糖類で、最も単純な構造です。単糖類には、主にブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ガラクトースなどがあります。
一方、二糖類は、2つの単糖類が結合したもの。代表的な二糖類には、ショ糖(グルコース+フルクトース)、乳糖(グルコース+ガラクトース)、麦芽糖(グルコース+グルコース)があります。そのほか、天然甘味料のトレハロース、パラチノースなども二糖類の一種です。
いずれにせよ、「糖類ゼロ」という表示は、裏を返せば「単糖類、二糖類以外の糖質は入っていないとは書いてありませんよ」ということになります。
多糖類とは、単糖類が多数結合したもので、でんぷん、オリゴ糖、デキストリン、ペクチン、グリコーゲン、セルロースなどが多糖類にあたります。
糖アルコールは、糖に水素が2つくっついた形の化合物。主なものとしては、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、パラチニットなどが挙げられ、これらは甘味料として重宝されています。
一方、「その他」に分類される代表的な糖質は合成甘味料。合成甘味料は、食品に存在しない甘みを人工的に合成したものです。現在、日米で認可されている人工甘味料は、アスパルテーム、アセスルファムK(カリウム)、ネオテーム、スクラロース、サッカリンの5つ。このうちサッカリンは、一時期は危険性が疑われて禁止されていたこともあり、使用されるケースは少なくなっているのが現状です。
ちなみに、天然甘味料は、天然に存在する甘味料ですが、人工的に合成して作られている場合もあります。天然甘味料として認められているメジャーな添加物としては、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、甘草、ステビア、ソーマチンなどがあります。
ついでに付け加えると、「ノンシュガー」といった表記も時折見かけますが、これは砂糖不使用(砂糖ゼロ)の意。つまり、砂糖=ショ糖なので、ショ糖以外の糖質が入っている可能性があります。
とはいえ、当然ながら「糖質が入っていないとはかぎりません」といったただし書きはありません。ですから、食品に書かれた文言から、言外の意味を消費者側が読み取るリテラシーを身につけるべきなのです。
「ゼロ食品」の「リスクトレードオフ」を知っておこう
さて、本来はカロリーがある食品や、炭水化物や糖類を含む食品を、そもそもどうやって「ゼロ食品」に仕立て上げるのでしょうか。
試しに食品表示をチェックしてみれば、おおよそのことは読み取れますが、多くの場合、人工甘味料をはじめとする食品添加物を駆使して商品開発をしています。ということは、見方によっては「ゼロ食品」をセレクトすることは、こうした食品添加物をセレクトすることでもあるのです。
近年、「リスクトレードオフ」という概念が少しずつ広まっています。これは、化学物質や食品に含まれる特定の成分など、体に悪影響を及ぼしかねないリスクを減らそうとすることで、別のリスクが増えてしまい、トータルで考えるとリスクの軽減ができていないような事態を言い表す言葉です。
要するに、あるリスクを別のリスクと取りかえているに過ぎない「プラマイゼロ」の状況に陥ってしまうというわけです。「ゼロ食品」においても、リスクトレードオフの可能性がないのかどうか、筋道立てて考えてみる必要があるのではないでしょうか。
昨今人気の「ゼロ食品」が、本当にダイエットや健康増進に役立っているのか――このあたりをどう判断すればよいのかについては、8月12日発売の拙著『体を壊す食品「ゼロ」表示の罠』(SBクリエイティブ)にて詳しく紹介しています。少しでも気になった人は、ぜひ読んでみてください。
(了)
永田孝行(ながた・たかゆき)
1958年愛知県名古屋市生まれ。東京大学大学院医学系研究科で肥満と代謝を研究。 生活習慣病予防と改善の為の食事療法としてGI値 (グリセミック・インデックス) に着目して実験・研究を重ねた後、2001年に「低インシュリンダイエット」を提唱し、ブームを巻き起こす。また2003年には特異的な体脂肪分解のメカニズムを解明し、部分痩せを可能にする著書『10 days ポイントダイエット』を国内外で出版。これまで60冊近くを出版し、書籍販売総数は500万部を突破。主な活動としては健康保険組合や企業を通して社員の健康・保健指導や生活習慣病予防と改善対策における食品の研究開発、健康コンサルタント、さらには講演活動や雑誌の指導・監修、テレビ、ラジオ、新聞などの取材も多数受けている。主な著書に『低インシュリンダイエット』(新星出版社)、『なんで太るの?』(角川書店)など。
1958年愛知県名古屋市生まれ。東京大学大学院医学系研究科で肥満と代謝を研究。 生活習慣病予防と改善の為の食事療法としてGI値 (グリセミック・インデックス) に着目して実験・研究を重ねた後、2001年に「低インシュリンダイエット」を提唱し、ブームを巻き起こす。また2003年には特異的な体脂肪分解のメカニズムを解明し、部分痩せを可能にする著書『10 days ポイントダイエット』を国内外で出版。これまで60冊近くを出版し、書籍販売総数は500万部を突破。主な活動としては健康保険組合や企業を通して社員の健康・保健指導や生活習慣病予防と改善対策における食品の研究開発、健康コンサルタント、さらには講演活動や雑誌の指導・監修、テレビ、ラジオ、新聞などの取材も多数受けている。主な著書に『低インシュリンダイエット』(新星出版社)、『なんで太るの?』(角川書店)など。